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怒ったような焦ったような声でグレイスが私へ問いかけた。
「うーん、ちょっとね……でもなんでもないよ」
私は誤魔化す様に笑みを浮かべると、グレイを見上げた。
さすがに王子との婚約話を断ったとは言えないな。
これ以上追及されるのを恐れた私は、話を変えることにする。
こちらをすごい形相で睨み付ける令嬢に顔を向けると、そっと口を開いた。
「あの女性の方たちは……大丈夫なの?」
「勝手にまとわりついてきただけだ、関係ない」
仏頂面で貴族女性たちを見据える彼の様子に視線と笑みが零れ落ちる。
もう14歳にもなるのに、彼はまだ女性が苦手なままだ。
でもいつか彼も……婚約者を作らなければいけない。
一体彼の婚約者はどんな女性なのだろうか。
仲良く出来るといいんだけどなぁ……。
そんな事を考える中、彼は仏頂面を消し、微笑みを浮かべたかと思うと、おもむろに私の手を取り、紳士の礼を私へ向ける。
「私と一曲踊っていただけませんか?」
日ごろ見ない彼の動作に笑いがこみ上げてくる中、私はニッコリと笑みを浮かべ見つめ返す。
「喜んで、グレイ様」
私はドレスの裾を持ち上げると、淑女の礼をとり、ゆっくりと彼の手に重ねた。
ホールへと出ると、また大勢の貴族の視線が私たちへ集まった。
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