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 店員が注文をとり席から離れると、茉莉は口を開いた。 「改めまして、橘茉莉と言います」 「あ、俺は浅越恭介です。えっと、大学二年です」 「大学生さんなんですね」 「あえっと、橘さんは?」    たどたどしく会話を繋いでいると、その時茉莉が少し笑った。不思議に思っていると、先程も感じた既視感、記憶の深奥が反応した。   ──見たことあるんだよなぁ    恭介は茉莉を見たことが確かにあった。ただそれがいつどこでのことなのかがずっとわからないでいる。会ったことも、話したことも初めてなのになぜかそう思ったのである。 「私、絵を描いてるんです。テレビにも出たことあるんですよ」    茉莉はその答えを、イタズラっぽい笑顔で打ち明けた。 「あぁ、見たことあると思ってました。だからかぁ」    茉莉は十五歳の時、高校一年生の時に世界的に有名な絵画のコンクールで最優秀賞とはいかずとも、その時唯一日本人で受賞したことで有名だ。それでテレビにも取り上げられたことがあるのである。それを当時高校三年だった恭介はすげーと思ってテレビで見ていた。   そんな有名人を前にしているが、恭介の胸の内にはやはり恋した相手といるという理由でドキドキしているのである。ドキドキでさっきから足が震えている。     
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