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 浅越恭介、二十歳。東京にある大学に通っている。趣味は特になく、バイトをして貯金をするのが生き甲斐のようなもの。このように、何度も人生を送っているゆえに、しっかりと神っぽさをなくしている。今日も朝のバイトを終え東京の街をひたすらにさ迷っていたのである。  人波をかき分け、迫り来る金属の塊のような車をやり過ごし、少しづつ人の少ない方へ進んだ。  人の世も変わったもんだな、と恭介は生まれてから何度も思ったことを独りごちた。少し歩けばある自動販売機や、小腹が空いた時に菓子などを気軽に買いに行けるコンビニ、オシャレなカフェ、和服のように重くない洋服。その他の全てのもの、いつでも新鮮な気持ちで恭介は眺めることができた。  無論、恭介なんて言う名前も本来の名前ではない。現世の親に付けられたものである。前世の記憶が曖昧なため名前を間違えることはないが、本来の名前を忘れそうになることもしばしば。  自分の名前なんだったかな、なんて考えながら歩いていると、誰かとぶつかってしまうこともしばしば。 「あ、すみませ」  そう言おうとした直後、雷を受けた衝撃を感知。脳に痺れるような感覚と心臓をハンマーで殴られたような衝撃が恭介の体を襲った。その衝撃は、恭介に思いっきり言葉を詰まらせて、意識を昇天させた。 「あ、すみません」 「あ、あ、いや、全然大丈夫です」  凛とした声に意識を天から引っ張り戻された恭介はキョドりながら答えた。     
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