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 長い黒髪に大きな瞳、大人びた雰囲気にどこか優しそうな表情で恭介をその瞳に入れた。  恭介は、呆気なく恋に落ちた。 「それでは」  そう言って彼女は立ち去った。  こういった時、イケメンなら声をかけられただろうか。しかしそれをするだけの勇気を恭介は持ち合わせていない。ただ人見知りだとか、根性無しだとか、コミュニケーション能力が低いとか言う話ではない。  自信の欠落。人が本来持って生まれてくるべきはずの自信を、恭介は一片たりとも持ち合わせてはいなかった。  いや、持っていたものをもぎ取られてしまったと言うべきなのだろう。  過去三度の死によって、恭介は自分に対して大きな無力感を味わっていた。  初の人間界で、恭介は人間ならざる自信をたっぷりと持って多くの異性にアタックしまくっては、振られ、アタックしては振られを繰り返してようやく掴んだ幸せは、大きな熊に呆気なく奪われてしまった。  前世で息をするように告白していた恭介はそれから気になる異性がいても、声すらかけずにその恋を終わらせてきた。大きな熊によって奪われたのは幸せだけでなく、恭介の三回分の人生における自信まで奪ってしまったのだ。     
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