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そんな恭介が、今目の前の異性に声をかけるなんてことは、宝くじを当てる以上に難しいことであった。一途と言えば聞こえはいいかもしれないが、何もしていないだけである。
一度ため息を吐き、信号待ちしている彼女の背から目を外して諦めをつけた。
これまでの人生で得たことと言えば、諦めの良さだけなのではないかと疑う。
そんな疑いを抱くくらいテンションが下がり、家に帰るか迷った時だ。車のクラクションが青空に響きわたった。突然のことに一瞬身構えたものの、すぐに冷静になることができた。
騒がしいなと思いながら、音のした方を見てみる。すると何やらトラックが走っているのが見えたのだ。
「なんだ、ただの、トラックじゃ……ない」
ただのトラック、ではなかった。信号無視に加え逆走、車と歩行者を危うく巻き込みそうになりながらそのトラックは走っていたのだ。しかも、スピードはどんどんと上げ、こちらの方向へ向かっている。
まわりの人たちも、身の安全を案じて遠くでそのトラックを眺めていた。
薄気味悪い連中だと思うが、そういう時代だと言うことも理解していた。恭介は早々にその場から離れようとした。
最後に、この目に先程の人を見ようと思った恭介は彼女が止まっていた信号機を振り返った。そして、恭介は目を疑った。
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