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 その光景を野次馬とばかりに取り囲んでいた人たちは警察が処理してくれた。恭介と命の恩人である彼女は軽い事情聴取をされた。二人ともこれといって被害を被っていないので裁判沙汰にはならなさそうだ。手のひらを見せて慰謝料は出ないのかと卑しい恭介は聞いてみたが、無理だった。    事情聴取の間、すぐ隣に恋する相手がいることに恭介ドギマギしていた。それとその時聞いたのだが、彼女の名は橘茉莉(たちばなまり)というそう。その名が記憶の底に触れた気がしたが、気になるほどではなかったのですぐに忘れてしまった。    事情聴取が終わると、茉莉から話しかけられた。 「あの、さっきはありがとうございます。助かりました」 「おおお、俺の方こそ、助かりました」 「お礼と言ってはなんですが、お茶でもどうですか? あ、お暇でしたら」    微笑んでそう言う茉莉の顔を見て、恭介は感激した。果てにはこれが夢なのではないかと疑った。しかしいくら舌を噛んでみても夢が覚めることはなく、血の味がした。 「あ、ぜひとも!」    異性との会話に慣れてきていた恭介は少しづつどもることも少なくなっていた。しかし話し始める時に「あ」と言ってしまうのは治らないようだ。 「あまり詳しくないので、おまかせしていいですか?」 「あ、わ、わかりました」    ここら辺にはあまり建物も多い方ではなく、詳しくないのも頷けることだ。しかし恭介、人混みが苦手なおかげがこういうところには詳しかったのである。       
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