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『馬鹿っ。変なツッコミはやめろっ。アレは、オレが招いた不幸だ。悔い改めた結果、幸福路線に戻すために致し方なく選んだ手法なんだっっ』
「一哉くんの現状を思うと、幸福路線には思えませんが?」
『うう……。そこなのだよ……。まさかオレも、こうなるとは……。ひーちゃんからも、[犬畜生以下]というレッテルを貼られるし……』
肩を落とし、顔を両手で抱え込み、男は唸る。数秒後、ゆっくりと顔が上がる。
『……まあ……、若すぎたんだろうな……』
「でも……、時間はかけられなかった……」
『ああ。……オレは、あの時見た、鬼の姿が忘れられなくてな……。早く彼女を無限地獄の中から解き放ちたいと考えていたから……』
沈黙が室内を包み込む。沸いたお湯をコーヒーポットに移し、ネルドリップを開始する風見の手元から、香ばしい匂いが立ち昇る。室内に渡る沈黙とコーヒーの香りの中、男は深呼吸する。
『…………オレは、彼女の、澄んだ黄金色の魂を愛していた……。それなのに、再会した彼女の内にあったのは、赤黒く淀んだ魂……。目の当たりにした時の衝撃は強かった……。これまでの自身の行いを全て悔やむほど……』
ぽたぽたと落ちるコーヒー液のように、ぽつぽつと男は言葉を吐き出していく。コーヒー液を見つめ続ける風見は、落ちる滴に、男の見た闇色を見た気がした。
「そして、ご自分の手ではなく、彼女が愛した男の手を借りようと思った……」
『ああ……』
顔を伏せていた男は、そこで顔を上げた。風見と目を合わせ、今までの気分を破壊するように、にやりと笑う。
『しごく尤もな、賢明な判断だろ』
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