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空気が一気に軽くなり、コーヒーカップを用意していた風見は全身の力が抜けた。
「……ご自分で仰いますかね……」
『ナイスなオチだと思わないか?』
「思いませんよ。そんなことより、幸福路線に戻す手段は考えておいでで?」
『ああ。その後のフォローはひーちゃんがしてくれた。彼はひーちゃんの好みに[ど・ストライク]らしくてな。犬畜生以下だ、と俺を罵った後、いつにもまして、気合を入れて奔走してくれたよ。後は、時間の問題かな』
ふふふ、と笑う男につられ、風見もうっすらと笑う。
「そういえば、一哉くんも言ってましたよ。ようやく落ち着いてきて、現実を受け入れようと思い始めたって」
『そうか。それは良かった』
言って男は、辛い思い出話は以上だ、と言うかのように、雑誌を捲ってそれを読み始めた。
「良かったら、こちらもどうぞ」
コーヒーを提供した後、風見は桜餅を差し出した。
『お。これは、あの狐の作品か?』
「知っているのですか、彼を」
『ああ。デパ地下の和菓子フェアで再会した時は驚いた』
「……九耀は店主だから仕方ないとしても……。ものすごく違和感がある場所に出没するのですね……」
『お前の姉さんに会うのに、手ぶらじゃ行けんだろ。[将を射んと欲すれば先ず馬を射よ]あの番犬、菓子がないと受け付けんのだ。……お。美味いな、これ』
「つぅちゃんは、洋菓子派ですよ」
『俺が差し上げたいのは、番犬…馬じゃなくて将の方なんだよ。和菓子の方が品があって好き、なんだそうだ。……なんだ、お前。そんなことも知らんのか。見下げた身内だな』
「……ははは……。姉の好物も知らない、出来の悪い弟ですみませんね……」
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