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 そんな御門の様子がおかしいと、営業社員の間で密かに囁かれているのは本人の耳にも届いていた。実際自覚もあったし、仕事に影響が出るようなことはないのだが、とにかく溜め息の回数が増えた。そしてまだ周囲には気づかれていないようだが、毎晩夢見が悪く、少々寝不足気味でもある。課長になり直接取引先に出向くことが減ったとはいえ、営業職として目の下にクマを作るような生活を今までしたことはなかった御門だ。だがこのままではそんな顔をして出社する日も遠くはない気がして、余計に憂鬱になっているのだった。 「くそっ」  思わず小さく悪態をついた御門は、その原因を作った男の顔を頭から追い払おうと目の前の書類に集中する。  先週までの営業成績をグラフ化した情報を頭に叩き込む。誰がどの会社からどれだけの金額を売り上げ、さらには昨年比のパーセンテージにまで目を通すのだ。営業は本人の資質もそうだが、相性というものがある。芳しくない取引先には合いそうな担当を配置するのも御門の仕事だ。それにはやはり社員の性格や性質を知っておく必要があり、御門は課長という立場で見えなくなる部分にも注意を払い、情報を収集して、営業社員全員の些細な変化にまで気を配っていた。元々人を観察・分析することに長けている御門だからこそ出来ることで、おいそれと他人が真似することはできない。そのやり方で仕事をしてきたからこそ、二十七歳という若さで課長にまでなったのだ。それも営業社員三十人を抱える第一営業の、である。     
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