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   通りかかった部屋の前で足を止めたのはたまたまだった。  何しろそこは会社の共有スペースの給湯室兼休憩所。  マンションであればワンルームほどの広さのあるそこは、今は就業時間であるために時折コーヒータイムを取る人間が居るだけ。というわけで、決して密室ではないし、鍵がかけられるわけでもない。  だから田邊徹がそれを聞いてしまったのも、仕方のないことだったはず。  しかしだからと言って、立ち聞きが許されるのかというとそういうわけでもなく、だから徹は自分がすぐにそこを立ち去らなかった事をひどく後悔した。 「ーーいいかげんにしてくれ」  剣呑とした声が給湯室だけでなく、通路にまで響いてくる。  徹は商品管理室へ届ける書類を片手に、入り口のすぐそばで固まってしまった。自分が叱られたのかと一瞬思ってしまったからだ。悲しいかな、そういった叱責は徹にとっては日常茶飯事。条件反射で背筋を伸ばしてしまったのも致し方ない。 「もう終わった話だと、何度言えば気がすむんだ?」 「もう一度考え直してくれ。頼むっ」     
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