【社長さんのお話】

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【社長さんのお話】

『豊かな世、忘れちゃいけない思いやり』 (一句・作/私) 以前、私が外回りの営業をしていた頃のお話です。 「やぁ!こないだ、久々に友人のAと会ってな!そん時、聞いた話を聞いてくれるか?新井田」 私の取引先の社長さんが、私にそんな事を言い始めました。 社長さんのお話に出てきたご友人のAさんは、何でも貿易関係のお仕事をしている方だそうで。 お仕事の関係上、しょっちゅう海外を飛び回っているんだそうです。 そのAさんが仕事で東南アジアのとある国に出張に行った時のお話です。 彼は仕事の合間に、ちょっと小腹が空いたんで市場に行き、 そこでパンを一個買いました。 で…早速、食べようとすると… ふと… 道端にうずくまって、こちらをじっと見ている、一人の少年と目が合ったんだそうです。 その少年… 見た感じ、みすぼらしい服装で、恐らく貧しい家の子供なんでしょう。 Aさんは、「きっと、お腹を空かせているんだろうな…」 と思い、自分が買ったパンをそっくりそのまま、その少年にあげました。 その途端! 少年は、パッと明るい笑顔になり、Aさんからパンを受け取ると、何度も何度もお礼の言葉をAさんに言いました。 で… その少年… てっきり、その場でパンに、かぶりつき、またたく間に平らげてしまうかと思ったら… その前に… そのパンを半分に、ちぎって… 自分の隣でうずくまっている一匹の子犬に、半分あげたんだそうです。 そして、その子犬がパンを食べている様子を笑顔で見守りながら… 改めて、自分の分…半分に小さくなったパンを食べ始めたんだそうです。 その様子を見ていたAさんには、その少年の優しい笑顔が、 とても、まぶしく見えたそうです。 「めちゃめちゃ良い話じゃないすか…」 と、私は社長さんのお話に感嘆の声をあげました。 すると、社長さんは… 「だろ?ところで、新井田よ…。 今、我々が住んでいる日本という国は本当に、いろんな『物』にあふれている。 『物質的』には、確かにかなり『豊か』だ。 でもな…。 こと、『心の豊かさ』に関しては… 我々とその少年… 果たして、どちらが上なんだろうな…」 「………」 「この事は、今を生きる者として決して忘れちゃいかん事だ。 と…考えてしまう、今日この頃なんだよ」 と、そう言うと社長さんは、静かに煙草に火を点け、 ゆっくりと煙を吐き出したのでした。
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