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「そっかあ。でも、よく訪ねて来てくれたね。ありがとう。子供の頃に戻って、机を並べたくなったよ」エルムは懐かしい遠くを眺める目つきになった。「いつ来てくれてもよかったに」
僕は首をふった。
「ランジェリーショップなんて、男が気軽に入れる世界じゃないよ。外は天気もよかったし、僕の仕事はオフだったし、キミが店先の掃除をしているのを見て、今日しかないと思ったんだ。今しかチャンスがない」
「ふーん。まさに待てば海路の日和あり、ね」
「あの、その・・・」僕は急にドギマギしてきた。「よかったら、今度メシでも食いにいかないか」
「あ、うれしい!。横浜の馬車道に洒落たイタリアンがあるの。あたしの知り合いがシェフしてるのよ。そこ、行ってみない?」
「知り合いのシェフ?」
今度は不安を覚えた。話がうますぎたからだ。実はシェフが彼女の旦那だったりして、飯沢君はアタシの同窓生でかくかくしかじかなんて、紹介されたりしたら目も当てられない。エルムは声をたてて笑った。
「おばかねえ。シェフは、あたしのアニキなの。あなた、今、妙なこと考えたでしょ?」
「いや」
「すぐ、顔に出るにクセ、昔から変わらないね!」
エルムが笑う。
僕はもう一波乱の予感がしてならなかった。
でも、今はこれでいいんだ。
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