店の名は、エルム

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  1  エルムは、白い扉にハルニレのイラストをあしらった洒落た店だが、男性はご遠慮下さいと貼り紙がしてある。マイノリティの方は歓迎しますと但し書きもある。  僕はいつも躊躇していて、白い扉を開けたことは一度もなかった。  ぼむ、ぼむ、ぼむ。  エルムの前を通るたびに、心臓がウッドベースのように震える。  僕は深呼吸をすると、通りを挟んだコンビニでウーロン茶とサンドイッチを買って、店頭の見晴らしのいいベンチに座った。  ベンチからは街並みが見渡せる。造船所や工場の紅白煙突のつらなりは蜃気楼のように靡いていき、風は潮の匂いを含んでいて、海に浮かぶ船舶にも異国情緒が漂う。  エルムの三角屋根のてっぺんで風見鶏が踊っていた。  エルムは、通勤路の途中にあるランジェリーショップだった。半年くらい前にオープンした店で、当初は僕は気にもとめなかったのだが、よく立ち寄るコンビニのベンチからは店の繁盛ぶりがみてとれた。     
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