店の名は、エルム

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 サンドイッチを頬張りながら視線を白い扉に走らせた。  行くなら今がチャンス。いつも行きそびれているが、いつまでもだらだらとしているわけにはいかない。午前中だから店内に客など誰もいないだろう。  サンドイッチの最後のひとかけらをウーロン茶で流しこんだ。  よし、行け!  僕は意を決して白い扉を押した。  しかし、扉は動かなかった。押しても引いても、カタカタと木の枠が揺れるだけだった。目の前の貼り紙に気がつかないほど緊張していたのだ。 <本日、棚卸のため12時からの開店とさせていただきます>  恥ずかしさで顔が火照る。それでも何食わぬ顔で平静を装い、その場からひたすら離れた。  何やってんだ、とんま。このとんちき、アホ。  自身に罵詈讒謗を浴びせながら、動揺を隠すかのようにあたりを徘徊した。  
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