店の名は、エルム

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 また出直すか。  僕の本当の目的はブラやキャミソールを買うことじゃない。  エルムのオーナーが、小学校三年生の時の少女と同一人物か確かめたいだけ。  けれども、そこはランジェリーショップ。特異な空間にひょいと足を踏み入れるには、やはり逡巡の壁が立ち塞がる。  ぼーっとしたまま街をひとまわりして、またコンビニのベンチに戻った。  その時、店の白い扉が開いて、オレンジブラウン・ショートボブの女が現れた。眩しそうに空を見上げ、おもむろに店先を掃きはじめた。  ショートヘアの形と少し勝気な表情とくりっとした大きな目は、昔の面影のままだと思った。むろん、人違いということはある。  僕が気になったのは<エルム>という店の屋号。  二十年前。  僕たちは小学校三年生で、席は隣り同士だった。  彼女の名前は岡崎エルム。どちらかというとお転婆で、物怖じしない積極的な少女だった。昼休みや放課後は男の子たちと混ざって遊ぶことも多かった。     
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