【春~半分桜~】

7/16
前へ
/42ページ
次へ
さて。 私と束砂が駅のホームに降り立ち、腕時計を見ると時刻はお昼ちょっと前になっていた。 お婆ちゃんには、お昼過ぎには、うかがうと電話で言ってある。 私達が改札を抜けて駅の建物から出ると、目の前に町並みが広がった。 「うおっ!大地! いつ来ても懐かしいな!」 束砂が感嘆の大声をあげた。 (『いつ来ても懐かしい』って、日本語的におかしくないか?) 「いやぁ、確かに全然変わらないよなぁ」 私も思わず感嘆の声をあげた。 前にこの町に来たのが、去年の秋だから… 実に約八ヵ月ぶりの再訪という事になる。 あの時は、秋という季節がら少々肌寒くもあったが、今日はまさに春ランマン! 駅前商店街の花壇には、色とりどりの花々…チューリップとかが咲いていた。 「よし! じゃあ早速、お婆ちゃんに会いに行こう!」 束砂が私を促した。 「そうだな!」 この町並みを通って1ブロックほど歩くと突然、商店は無くなり田園地帯になる。 目的の墨田商店は、その田んぼの舗装道を二十分ほど歩くと見えて来るはずだった。 「食べ物や飲み物は全部、店の商品でまかなうから二人とも手ぶらでいらっしゃいな」 と、お婆ちゃんが電話で強く言うものだから、私達は悪いとは思ったが、その言葉に甘えさせてもらった。 さて。 そうして、私と束砂は墨田商店へと向かった。 やがて… もう少しで、 商店の建物が見えてくるであろうという所まで来て… ふと… 束砂が、足を止めた。 「…うん?どうした?」 と、私も足を止める。 「あれ、見てみなよ!」 束砂が指差す先には、 少し広めの草原が有った。 この辺り一帯は、基本的には田んぼだらけなのだが、 中には、誰の所有地かは知らないが 今、束砂が指差した先に有るような一面雑草が生い茂る草原も有る。 その… 少し広めの草原の周囲をぐるっとロープと杭で囲っている二人組の作業員の姿が目に入った。 そして、 その囲いの横には、大きな立看板が立っていた。
/42ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加