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エピローグ
とうこさんはいなくなった。食事などなく、生活感のない状態がそう教えてくれる。翌日、とうこさんの両親と弟の晴樹君が訪れた。娘から連絡を受け来たのだと。居間に入ると母親はソファーめがけ駆け出した。父親も、弟もそこへ近づく。母親は夫へ顔を向けて首を横に振った。父親は、僕の横で無表情のまま立ち尽くしている。「娘から・・君の症状を聞いた時、信じられなかったが、君の様子を見れば納得だな。娘の遺体をあんな風に普通放置せんよ。」父親は母親のいる方を見ながら体を震わせている。「私はね、」父親は言葉を続け、「君の症状を聞いて別れることを薦めたが、娘は頑なにそれを拒んだよ。「私はどんなことがあっても、君を支えるんだ。」とね。」と寂しそうに呟いた。母親は遺体を抱える仕草をし、うつむきながら涙を浮かべている。弟の晴樹君は僕を睨み付けながら姉の遺体へ近づくと、すがるように体に触れて「とう姉、とう姉」と泣き崩れた。やがて父親が娘は細田家で供養する、と言って引き取り、一家は去って行った。僕は一礼したが、応えたのは父親のみで弟の晴樹君が抱えているであろう、とうこさんの姿を認識することもなく、寂しい別れとなった。
とうこさんがいなくなって一週間。僕は少し荒れていた。部屋も汚くなり放題、酒に弱い僕の酒量が増えた。今日も酔いつぶれて帰宅すると、ネクタイに手をかけ無造作に外し、その辺に放り投げる。ふらふらでソファーに倒れるように横になると、メールの着信音が鳴った。「誰でしゅか、こんな時間に~」スマホの画面をだらしなく見ると送信者はとうこさんだった。僕の酔いが一気に冷め、体を起こすと食い入るよう画面を見た。
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