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わかれ
結局、僕らは別れることなく不思議な生活を続け、20年の歳月が経った。その間、僕なりに工夫もした。料理が美味しいと大声で「美味しいなぁ!」とか、何かされたら感謝するという努力を体現して見せた。実際、色々助かっている。ある日、とうこさんからメールが届いた。
ピロリン
「正ちゃん、今までありがとう。私・・もう永くないみたい。貴方はあれから認識できない私に対し、努力してくれたね。私の誕生日にはプレゼントを買ってくれた。面白い出来事があったら大声で話してくれた。色んなありがとうを言ってくれた。私、それだけで幸せ一杯だったよ。二年前、乳癌が見つかって結構進行していました。手遅れってね。私、頑張ったんだよ!本当はもう死んでるんだから。頑張ったけど、もう、駄目みたい。お父さん、お母さん、弟の晴樹には私のことを伝えてあるから、死んだら引きとってもらうね。癌って秘密にしてたから、怒られちゃった。私、今、あなたの隣にいるんだよ。まだ生きて、生きて、正ちゃんの隣に・・寂しい、とても寂しい、気づいて・・」
とうこさんからの突然のメール。しかも死ぬって。僕は動転し、動揺した。まだ、まだ生きている内に一目会いたい!この世に神はいないのか!「神様!いるなら悪魔でもいい!一目、一目でいいからとうこさんに会わせてくれ!この命捧げてもいいから!」僕は泣いてとうこさんの名前を叫び続けた。隣にいるはずのとうこさんを認識できないもどかしさ、切なさ。とうこさんの名前を呼び続けること800回以上、声もかすれ、発音すらままならぬようになった時、何かが僕に触れる感覚を覚えた。
『ありがとう』
とても優しい声が聞こえた気がした。
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