ラッキーカラー

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ラッキーカラー

 大きな左手で顔を覆い隠すようにして眼鏡を直す仕草とか、スマホで電話をしながらメモを取っている姿とか、真剣な表情でキーボードを叩く姿とか、デスクマットに愛犬の小さな写真を挟んでいるところとか、いつもきっちりと纏めている髪が雨の日には少しだけ耳の上が跳ねるところとか、呑み会の席ではピーマンをこっそり横に避けているところとか、苦手な経理の竹下さんと話すときには左頬が引き攣っているところとか、火垂るの墓を観て何度も泣いちゃうところとか、実は甘い物が大好きでシュークリームを一気に三つも食べられちゃうところとか、左手首に小さなホクロがあるところとか、言い出したら一日中――ううん、一週間だって、一年間だってずーっと話し続けられるくらい、あなたが――あなたを構成する全てのものが大好き。だから今日もこっそりあなたを見るの。電話をしながら、キーボードを叩きながら、お弁当を食べながら。ストーカー? うん。そうかもしれない。だって声を掛けるなんて無理だもの。隣に彼が居るだけで私の頭は沸騰しちゃうんだもの。ぐつぐつぐらぐら煮えたぎって、ほっぺたなんか真っ赤になっちゃって。彼の名前を呼ぶだけで、私、気絶ししゃうんじゃないかしら。でもね。本当はお話したい。あの低い声で私の名前を呼んで欲しい。そして昨日見たドラマの話とか、新しくできたカフェの話とかしたいなって思ってる。あ、今日はブルーのネクタイしてる。私が好きなネクタイ。彼に一番似合ってる奴。そういえば今日のラッキーカラーはブルーだったわ。これをきっかけに話しかけてみようかな? ネクタイ似合ってますねって。
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