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「あ~あ。戸村くんとももうお別れだね~」
学校生活において、重大なイベントの一つ『席替え』。
次の時間、担任の先生の授業内でそれが行われることが確定していた。
ほとんどの人が喜びや期待で胸が一杯の中、僕は違う意味で胸が一杯だ。
一緒にいる空間は変わらない訳なのに。
毎日顔を会わせることが出来るのに。
話そうと思えばいくらでも話せるのに。
どうしてこんなにも寂しいのだろう。
見慣れたはずの隣の成田さんの横顔がいつにも増して美しく見える。
僕が彼女を意識しはじめたのは今の席になってからだ。
それまではお互い話したこともなく、ただのクラスメイトの関係だった。
「この席になったとき、始めに戸村くんが言ったこと覚えてる?」
やめてくれよ。永遠の別れみたいじゃないか。
「『僕なんかが隣でがっかりしたでしょ』って、私あの時反応に困ったんだから」
笑うなよ。こっちは愛想笑いで対応するだけで精一杯なんだから。
「でもさ、この席にならなかったら多分戸村くんとこんなに仲良くなってないよね。いや、会話を交わすことすらも無かったかも」
そうだね。この席じゃ無くなったら、きっと僕らは話す口実を無くし、これから会話を交わすことが無くなるだろう。
実際めちゃくちゃ親しくなったって訳でもないし。
「今度は私、後ろの席が良いなぁ。授業中にこっそり宿題出来るし」
宿題の答え合わせも毎日のようにやっていたな。
きっとそんな事も今日で...。
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