墓場までの恋予約した

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「嶋田は今どうしてるんだ?」 「結婚して専業主婦です。子供が二人、標準的な日本人の家庭やってます」  そうか良かったなと、今度は気持ちよく笑ってくれた。だから私も笑って先輩は? と同じ質問を返せる。 「独りだよ。一回結婚はしたけど別れた。子供はいない」 「お母さんは?」  彼は実家暮らしだった。一度だけお宅にお邪魔したことがある。私に興味津々の母親にお茶を頂いた。私は私で先輩と結婚したらこの義母とうまくやれるかと探っていた。何のことはない、お互いに捕らぬ狸の皮算用だった。 「数年前にな。父親はずいぶん前に亡くなっているし妹は嫁にいった。本当に気楽な独り身さ」  彼は自分に聞かせるように呟いた。 「母親が先に逝ってくれて良かったよ。これでもう何の気兼ねもない」  いたたまれず視線を下にする。それに気が付いた彼は左手を振って話題を変えた。 「ようやく手首のホクロ、見せ合えるようになったな」  しばらく間を置いてからやっと、絞り出すように言い返す。 「フったのは先輩のクセに、そういうこと言わないで下さい」  脈はあると思ったのだ。
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