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私は自分の肩を撫でていた。彼が触れたところ、そこからじわじわ熱を持っていく感じがする。
ああそうか、不完全燃焼だった残り火に新鮮な空気が吹き込んだんだ。パチ、パチと久しく聞かなかった火のはぜる音がする。
一瞬後、追いかけた。私も体力がないから実際には歩くのより若干早い程度だと思うけど走った。
正面玄関の車寄せでタクシーの方に歩いていく彼の腕を捕まえる。
「過去じゃない。気持ちを隠すなんてもうご免です。昔も今もずっと好き! 今度会ったとき、気力体力充実してたら絶対ホテル行きますからね!!」
少し間を置いてから、鳩が豆鉄砲くらったような彼の顔はゆっくり時を超え、あの頃と同じ色気あるものに変わっていく。
「公然と不倫の約束か。旦那に怒られるぞ」
「墓場まで持って行きますよ。どうせお互い片足突っ込んでるようなもんですから」
そうだなと彼は笑い、私の手を取ってホクロにキスをした。
約束なと呟いた彼の唇はカサカサで、ささくれに引っかかれたような感触が皮膚にしばらく残っていた。
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あれから先輩と一度も会っていない。
単に病院の診察時間がかち合わないのだと思っている。
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