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本当のことを言うと、少し景子が羨ましい。
今日はこれから、高遠君の晴れ姿を見ることができるんだもの。
『おめでたいことではあるけどさぁ、いい加減ちょっと呆れるよ』
ついさっき、街中で偶然会った景子は正装していた。
『だってこれ、三回目よ三回目。それでまたウエディングパーティやるなんてさ。いくら相手が、一回り以上年下の初婚の奥さんだからってねぇ』
高遠君と中学校時代に生徒会で一緒だった景子は、今も変わらず仲が良い生徒会メンバー達と今夜、レストランウエディングに招待されているという。
高遠君の、三回目の。
だから私が今もずっと変わらず高遠君を好きで、まだまだ恋の作戦の入口だと伝えると、何とも言えない表情をしたのだ。
でも、大丈夫だよ景子。私は別に傷ついていない。
二回離婚して三回の結婚ってことは、まだまだ同じことを繰り返す可能性だってあるじゃない。
次もきっと巡ってくるであろうチャンスを待つ間、じっくり次の一手を考える猶予ができたとも考えられる。
私の作戦は着々と進んでいて、いたって順調だ。
中学生時代はまったく手が届かなかった初恋のあの人に、朝の挨拶までできるようになったんだから。
次は…そうね、世間話ができるように頑張ろう。天気の話とか。
このために私は女子高、女子大、女ばかりの職場を選んで、他の男の人とは極力関わらないように生きてきた。親や親戚が持ってくる見合い話も、写真も見ずに断ってきた。
高遠君のことだけを考えて、ひたすら作戦を練られるように。
そしていつかきっと、昔おじいちゃんが褒めてくれたみたいな最高の一手を指して、この恋を実らせるの。
高遠君に一目惚れして二十八年。
私の戦いはこれからも続くのだ。
終
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