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「八尋ー! うるせーぞー!」
教壇から僕のことを睨みつけた先生は、ドスの利いた声で怒鳴った。
「す、すいません!」
慌てて謝り席に座る僕に、クスクスとした笑い声が聞こえた。声の主は案の定隣の席からだった。
「ふふふ……怒られっちゃったねー」
「……誰のせいだと思ってるんですか」
先生から怒られることになった元凶、声の主に視線をやった。それは隣の席の女の子、サラサラとした長くて艶のある黒い髪を携えた彼女は肩を震わせ笑っていた。そして大きてく丸い瞳が僕のことを真っ直ぐに見つめて言った。
「だって悠里が無視するんだもん」
彼女は悪びれる様子もなく、口元を綻ばせながら頬杖をついた。
「相手をしたら先生に怒られるからです」
楽しそうな彼女と打って変わってムスっとした表情を作る。
「相手しなくても怒られてるよ?」
「ぐ……」
いきなり正論を言われてしまい言い返せない。授業中、いつも彼女の誘いに乗ってしまい、先生に怒られてしまう。だから今日こそは誘いに乗らないと心に決めていたというのに、結果的に今日も怒られてしまった。そろそろ先生から要注意人物としてマークされそうだ。いや、もうされているかもしれない。
「毎回先生に怒られるのは僕なんですからやめてもらえませんか」
悪いのは話しかけてくる彼女なのに、タイミングが悪いのか怒られるのは毎回僕だ。抗議の意味も含めてやめてもらうよう伝える。
「えー。やだー」
あまりにも直球な拒否の言葉にガクッとなる。
「なんでですか。僕も先生に怒られるの嫌ですから」
それでも負けずに応戦する。ここで引いたらますます先生から怒られてしまう。
すると彼女は大きな瞳でこちらを見つめてきた。教室の一番後ろの窓側の席に座る彼女の背後から、爽やかな陽射しが差し込み、それは美しい黒髪を煌めかせる。大きく可愛らしい目に高い鼻、整った顔立ちをした彼女は誰の目から見ても美しかった。そして僕を見つめたままニコリと笑いかけると、優しい声で言った。
「だって……悠里と話すの、楽しいんだもん」
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