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「!」
屈託のない笑顔で臆面もなく言い放つ彼女に、思わずドキリとして目を背ける。なんだか顔が熱くなり、鼓動が早くなる。一瞬にして焼き付いた彼女の笑顔は僕の鼓動を高鳴らせた。
これは……まずい……。この感情は……非常にまずい……。
一瞬頭に浮かんだ“あるワード”を必死に振り払う。それは僕には決して許されない感情。“絶対に抱いていはいけない感情だ”。
思わず頭を抱え机に突っ伏す。雑念を払おうとすればするほど彼女の笑顔が脳内を占領する。ウンウンと唸っていると、また隣の席から声が聞こえてきた。
「悠里。悠里ってばー。ゆーりー? おーい」
まただ。またそうやって僕の名を呼んで楽しむつもりだろう。もう今日はその手には引っかからない。そんなことを考えていると雑念は自然と消えかけていた。これならもう大丈夫そうだ。しっかりと自分を奮い立たせ、決心した。
よし! 今日はもう“お嬢様”に惑わされないぞ!
そう、心に決めて、顔を上げた瞬間だった。顔を上げた僕の目に入ったのは、鬼の様な形相で僕の目の前で仁王立ちをする、先生の姿だった。
「――八尋ー!! 寝てんじゃねーぞー!!」
教室中に響き渡った怒鳴り声に何度も「すいません! すいません!」と平謝りする僕の隣の席には、肩を震わせながら必死に笑い声を堪えるお嬢様の姿があった。
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