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帰り道
「……ねー」
夕日を背に受け、無言で住宅街を歩く僕の隣で、申し訳なさそうな声がした。
「……ねぇ。ねぇってばー」
隣を歩きながら僕に話しかけてくるのは、お嬢様だった。
「……怒ってる?」
その言葉に僕は足を止めて立ち止まる。怒っているかどうかと言われたら、正直怒ってはいなかった。
あの授業のあと、職員室に呼ばれた僕は先生からこっぴどく叱られた挙句、バツとして図書室の掃除を命じられてしまった。しかし“僕の職務上”お嬢様を置いて掃除をするわけにもいかず困っていたところ、お嬢様が手伝いを申し出てくれて、今に至っている。
「……怒っては……いません」
「ホントに?」
僕の言葉にお嬢様の声は一気に明るくなるのがわかった。しかし、お嬢様は腑に落ちないらしく続けた。
「でもその割には話しかけても全然反応ないし」
「それは……」
正直お嬢様には言いづらいことだったので言葉を濁そうとするが、相変わらず大きな瞳で真っ直ぐに僕を射抜いてくる。視線が重なって数秒。あまりにもじっと見つめられるものだから、早々に観念する。このままではまた僕の鼓動が異常をきたしそうなので、ため息を一つ吐いて口を開いた。
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