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「……お嬢様に掃除を手伝わせてしまった自分が不甲斐なかっただけです」
「え?」
お嬢様は驚いたように口をポカンと開き、大きな瞳を更に大きくした。
「お嬢様の手を煩わせてしまったのが申し訳なくて話しづらかったんです……」
学校からの帰り道、話しかけてくるお嬢様を怒っていたから無視していたわけではない。“使用人”である僕が、結果的に隣を歩く“お嬢様”に掃除を手伝わせてしまった。その申し訳なさから、笑顔で会話をする気になれなかったのだ。
「お嬢様。申し訳ありません」
腰を折り、遅れてしまった謝罪の言葉を口にする。本来ならばすぐにでも謝らなければならないところだが、それはまだ自分もお嬢様と同じ高校一年生で、年相応の照れがでてしまったからだろう。まだまだ使用人として未熟者だと自覚する。と、そのときだった。
「はー……なーんだー! よかったー!」
お嬢様は大きなため息を一つ吐いたかと思うと、両手を天高く掲げて安堵の言葉を口にする。不意に吹いた柔らかな風が制服の胸元についているリボンを揺らした。
「悠里!」
「は、はい!」
急にマジメな顔をしたお嬢様は、僕に詰め寄ってきた。その勢いと気迫に思わず気圧されるが、それと同時にふわりと甘い香りが鼻を掠めた。お嬢様より少し背の高い僕の視界には、上目遣いのお嬢様が眼前に迫り、思わずドキリとしてしまう。しかしこんなにも真剣な表情のお嬢様はあまり見たことがないため、緊張する。
お嬢様の手を掃除で汚してしまったことが旦那様に知れたら怒られるかもしれない。下手をしたらクビになるかもしれない。そんなことが頭をよぎり、ゴクリとつばを飲む。そしてお嬢様は真剣な眼差しで言った。
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