そんなこと

1/3
前へ
/205ページ
次へ

そんなこと

「あぁ、ユリ・・・無事で良かった・・・。」 絞り出すように彼が口にした言葉は、この病院へ来るまでの間、どんな心配していたかを物語っていた。 この手で、彼に触れたい。 その髪に、指を絡めたい。 けれど今は、全身が鉛のように重くて頭を動かすことさえ難しい。 極度の緊張状態が続いたためか、出血が多かったからなのか、それとも薬の作用なのか、私にはわからなかった。 彼の言葉に返事も出来ず、小さく微笑む。大好きな、大きくて骨ばった手が、ゆっくりと私の髪を撫でてくれる。 そして私はそのまま目を閉じて、繋がれた手に安心しながら眠りに入った。 どのくらい眠っていたのか、ふと目が覚めるとやはり彼はそこにいた。 ベッドの横の椅子に座って、ペンで手帳に何かを書いている。 目を開けた私に気付くと、ニコッと笑う彼。 「洋一さん・・・。」
/205ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6385人が本棚に入れています
本棚に追加