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「昨日も言ったけど、人事部には俺から入院になったことを連絡するから。しばらく休むことになるけど、仕事のことは忘れろ。」
「・・・・・。」
「心配する気持ちはわかるが、今は体の方が大事だ。ユリ・・・頼むから、ちゃんと休んでくれ。お願いだ。」
「・・・大丈夫よ。」
「・・・・・。」
「よく、ドラマの中で誰かが妊娠すると、『一人の体じゃないんだから大事にして』ってセリフがあるでしょう?」
「・・・・・ん。」
「本当にその通りだと思ったの。私の体はもう私だけのものじゃなくて、赤ちゃんのものでもあるし洋一さんのものでもあるんだなぁ、って。」
「・・・あぁ・・・そうだよ。」
「だからちゃんと治療して、休んで、元気になります。」
「ユリ・・・・・。」
彼は嬉しそうに笑って私の髪を撫で、その髪にキスをした。 そして程なく、自宅へ帰って行った。
髪に、唇に、残る彼のぬくもり。
ガラス窓越しの陽の光が眩しくて、目を閉じた時に気づいた、胎動。
私はお腹を撫で、日に日に愛しさを増しているこの命が、確かに生きている幸せを噛みしめた。
この日から、入院生活が始まった。
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