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午後の診察のあと、個室を出て4人部屋に移動になった。
私以外の人は皆、初めての妊娠ではなく、悪阻が重かったり子宮筋腫が大きかったり、症状も年齢も様々だった。
「氷室さんはねぇ、まだ新婚さんなのよー。」
点滴バックの交換にきた看護師さんが、病室の他の妊婦さんに大きな声で言った。
「えーっ、そうなんだ。」
「じゃあ、まだアツアツね。」
「結婚して何ヵ月?」
隣のベッドの妊婦さんが、口々に私へ話し掛けてくれた。
「去年の9月に結婚したばかりなんです。」
その時、ちょうど彼が病室に入ってきた。
「こんばんは。」
彼は他の妊婦さんに挨拶をすると、ベッド横の椅子に腰掛けて人目も憚らず私の手を握った。
3人は「新婚さんのふたり」に興味津々のようで、その様子をじっと見ていたが彼はまったくお構い無し。 それどころか、母が買ってくれた髪どめに気付き「これいいね。お母さんが?」と首筋近くを触れてくる彼。
少し恥ずかしさを感じながら、小さく頷いた。
首筋が、熱くなるのを感じた。
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