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秘密の合図
「なっ、ユリ。」
まだ私の手を握ったまま、彼が顔を少し寄せて、小さい声で話し始める。
「はい?」
「やっぱり、個室が良かったよな。」
「え?そうですか?一人部屋より、大部屋のほうが楽しそうですけど。」
「いや・・・でもあれ・・・そのさ。」
「・・・?」
「ここじゃ、ユリにキス出来ないだろ。」
「へ?」
「ただいま、ってやつだよ。」
「・・・・・。」
「ホラ、俺ってキス魔じゃん?毎日してたのに出来ないなんて・・・。」
「・・・・・。」
「あー、してぇ。」
彼を、見る。
そこには真剣な表情の彼がいて、一瞬からかわれているのかと思った自分が、逆に恥ずかしいほど。
顔が紅潮する気配に、慌てて話題を変える私。
「洋一さん、お仕事終わるの早かったんですね。」
「ん?そうかな。今の時期は忙しくないから、定時に上がってきたんだよ。あー、そうそう。人事部に今朝立ち寄って全部話してきた。杉山課長が、すげぇ心配してたぞ。」
「杉山課長が?」
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