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ますます力強く私をとらえる腕を、ペシペシと叩いて抵抗するも、びくともしない。
「もう1日休めば?」と言ってくれる彼は立派な社会人で、同じ会社の役付け者でもある。本気で発した言葉でないことは、わかっている私。
それでも「行かせたくない」と呟いたその人のことが、無性に可愛く思えて、つい顔がほころぶ。
「・・・・・・洋一さん。」
「んー?」
「顔を・・・見せて?・・・。」
彼はゆっくりと腕の力を緩めると、私と視線を合わせた。
華奢なメガネの奥には、吸い込まれそうな焦げ茶色の瞳が、まっすぐに私をとらえている。
「洋一さん・・・・。」
「ん?」
「私って・・・幸せね。」
「・・・・・。」
「こんなに、私を想ってくれる人と結婚出来て。」
「・・・・・。」
「洋一さんと結婚出来て・・・幸せです。」
「ユリ・・・。」
私が微笑むと、彼も微笑んだ。
自然と顔が近づいて「いってきます」のキスをすると、彼は「まいったな」と呟いて、私を捕まえていた腕の力を緩めた。
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