桜の咲く頃、心は二つでとめて

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「おまえ…。いつのまに…。で、もう、決めたのか。俺たち、いや俺のことはどうでもいいのか!」 「どうでもいいわけないよ。だから、一緒に京都に行こう」 「そんな、勝手に決められても困る! 俺だって責任のある仕事をしているんだ!この東京で!」 「そうだよな。たぶん、怒ると思っていたよ。でも、このチャンスを逃したくなくてさ」 「勝手すぎる!」 「一緒に暮らせるんだよ。今と同じように。一緒に住んでいいってその人は、言ってくれたんだ」 「俺たちの関係は話したのか?」 「もちろん。全然、問題ないから」 「でも…。だめだ。お前は勝手すぎる。俺の仕事や人生をなんだと思ってる? 俺は行かない。お前の好きにしろ」 「そっか。うん。そうだよね。僕は自分の事しか考えていなかった…。裕太にも仕事があるよね。当たり前の事がわかってなかった…。ごめんよ。勝手だけど、僕一人で行くよ。この部屋の家賃、折半出来なくてごめん。裕太の好きなところに変わっていいから」 「そんなこと、心配するな」 「また、会えるよね?」 「ああ」 「僕…待ってるよ。裕太を。きっと、僕のところに来てくれるって。あっ。ごめん。また勝手野郎発言した」 「バカやろう。どこまで俺を振り回すんだ.」 「本当に、好きなんだ。愛してる。だけど、今は…。ごめん、裕太」 三月 あいつと暮らした日々はすでに過去。今は、俺一人。心は虚しいが、仕事に没頭する事で時間は早く過ぎていく。いや、時間の早さに心を没頭させようと、無理に仕向けていただけだった。 そんな時、会社から辞令があった。四月から京都支社に転勤だと。支社勤務だが、責任は重くなる仕事だ。 急な辞令は、寝耳に水、なんてところだが俺にとっては、天からの啓示だった。 逢える。あいつとまた一緒に暮らせる。 なんてことだ。この心のトキメキは。まるで、10代のウブなガキじゃないか。 逢いたくて。たまらなくて。でも、会わなくて。留まって。 俺の人生は、俺。あいつの人生はあいつ。勝手にしろって割り切っていたのに。 やっぱり、勝手なあいつに翻弄されてしまう。 名目は、転勤の辞令があったから。だけど、本音は、追いかけて行きたくてたまらなかった。 俺だって、あいつのこと、好きで堪らない。愛してる。 もうすぐ逢える。四月。 桜が咲く頃、心は二人でとめて。 俺は、ずっとあいつと歩んで行きたい。
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