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二月。
俺を残して行ってしまった。あいつは、突然に俺をひとりぼっちにした。心の揺らぎが収まらなくて、自分を持て余し、泣いてしまうのが常だった。
五年前。
あいつと出会ったのは、まだ大学生の頃だった。
気がついたら、一緒にいた。なんとなく講義でよく目にするうちに友達になって、、。それから、息をつくまでもない速さで恋人関係になっていた。
卒業後、俺たちは違う路をたどった。
「裕太は、就職するんだな。会社に勤める普通、、のサラリーマンか」
「サラリーマンで悪いのか?」
「いや。そんなつもりで言ったんじゃない。僕は、アートを極めてみたくて。毎日時間が取られるサラリーマンになれないだけさ」
「おまえ、まだ…」
「諦めないのか、だろ?」
「当たり前だ。芸術系の大学を出たわけでもないし。描くことをちゃんと習ったわけでもないだろ。絵は趣味ならいいさ。だけど、それで食っていこうなんて、バカげてる」
俺は半ば呆れつつ、他人からみたら子供っぽい考えであったとしても、意地でも意志を変えず固執する、そんなブレない強靭な意志力は羨ましくもあった。
ただ、それも場合によると思った。画家になるなんて。無謀すぎる。
「裕太、呆れてるんだろ?」
「そりゃそうさ」
「だと思った。僕は、画廊でアルバイトしながら、絵を勉強するさ。コツコツやっていく。だから心配しないで。取り敢えずの食い扶持は稼ぎながらやるから。裕太に負んぶに抱っこしないから。安心しなよ」
「そんなこと、、」
「もう決めたんだ」
「ああ。俺から何か言ってもおまえが変えないのは、わかってる。だけど…」
「わかっているなら、もうこの話しは止めだ。終了!」
「でも…。このままこの部屋で暮らせるかな」
「はーん。僕と離れて暮らしたいのか」
「ち、違う。おまえが絵を描きたいならこの部屋じゃ狭すぎるだろ?だから、、どうかな、と」
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