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前章
「これ、何ですか」
ティーセットをお盆にのせて運んできた横宮さんに、私は一枚の紙を突きつけた。
うららかに日の光が差しこむ午後は、
昨日と変わらない春の陽気。
ただひとつ、変わっていたのがこの紙だ。
「………」
横宮さんの眼が、無言のまま私を通り抜ける。
多分、窓際の座卓の上を確認したんだろう。
白い封筒は変わらずそこにあるけれど、
その中身である紙は、今は私の手の中だ。
それもただの紙じゃない。
『退去勧告』と銘打たれた文書だ。
内容は容赦なく、
この家を出ていけと書いてある。
嫌味なほど丁寧な文章は手書きの毛筆で、
明らかに正式な書類ではなかった。
それなのに、あまつさえ、従わない場合は強制的に退去させるなんてことまで。
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