前編

3/7
前へ
/8ページ
次へ
チャトラの精霊が言っていることが理解できないにしろ、それは僕にとってこの上ないことであった。普段の世話は任せっきりでも、いつも縁側を独占している邪魔な奴でも、いなくなればその鳴き声のない空間に耐え切れなくなるのだ。  とにかく僕はこの依頼を受けることにした。  外は雨なので家の中から探すことにしよう。  とはいうもののどうすればいいんだ。そもそも嘘ってなんなんだ。 「嘘ってその場にそぐわないもののことか?」 「僕にはわかんないにゃ。」  使えない精霊め。嘘について考えても無駄な気がして行動に移すことにした。とりあえず不自然なものを探すという方針でいく。  まずはチャトラに関連するものから探していく。久しぶりにキッチンの一番下の収納棚を開ける。中からは大量のキャットフードが出てくる。隣で精霊のチャトラが舌なめずりをしている。 「どうせ食べられないだろ」 「ううう、僕には肉体がないのにゃ」 毎朝エサ皿に入れられるおなじみのキャットフード。注意深く見るものの不自然な点は見当たらない。しかし引き出しを最後まで引いてみると奥から犬のキーホルダーが出てきた。 「もしかしてこれか?」 キャットフードをしまっている引き出しにあった犬のキーホルダー。たしかに場違いだ。 「……違うみたいだにゃ」 少し時間をおいて精霊のチャトラは答える。はずれだったらしい。引き出しを元に戻して、ふと気になった疑問について尋ねてみる。     
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加