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後編
思い当たる場所は全て探した。それでもまだ答えにはたどり着いていないらしい。
そもそもチャトラに関する問題をチャトラ抜きで考えることなんて不可能なんだ。いずれにせよどこかのタイミングでチャトラに会いに行かなくてはならないんだ。そして残された選択肢はチャトラに会いに行くことしかなかった。もしかしたらそこにいる母さんや姉ちゃんに聞けば何か手掛かりを得られるかもしれない。結局僕は一人では何もできないのだ。
ここから動物病院までは歩きではそこそこ遠い。いったん家に帰って自転車で行くという選択肢もあったが僕はそれを選ばなかった。
雨に打たれたい気分だったのだ。自分の無力さを感じたい気分だったのだ。
しかしそんな雨も幸か不幸か次第に弱まっている気がする。
リズムの良い雨音をバックミュージックにチャトラとの日々を思い出すことしばらく、目的の動物病院の屋根が見えてきた。
入り口で姉に会った。
「姉ちゃん、この世界に隠された嘘ってなんだろう」
「何訳の分からないこと言ってるの」
「だからその嘘を見つければチャトラが助かるってチャトラの精霊が」
「大丈夫なの?頭でも打った?」
「いや嘘じゃないって。ちゃんと見えたんだから」
どうやら通じそうもない。
「とりあえずチャトラに会ってきなよ」
「うん、そうするよ」
姉ちゃんはだめでも母さんに聞けば、チャトラを直接見れば嘘の正体が分かるかもしれない。
黙って姉ちゃんの後ろをついていく。ある一室の前で立ち止まると扉を開けて僕に入るように促した。
それに従って入った瞬間、僕は全てを悟った。
「おっ、来たんだね。チャトラの背中を撫でてあげて」
「うん、そうするよ」
そこには母さんに撫でられて幸せそうな顔をしたチャトラがいた。
チャトラは生きてたんだ。チャトラが死んだと思い込んでいたことが嘘だったんだ。
「右の後ろ脚だけはどうにもならなかったみたいで」
よく見ると目の前にいるチャトラは足が三本しかない。
「チャトラ、チャトラ」
気がつけば脈絡もなくチャトラの名を呼び、存在を確かめ、ただひたすらに泣いていた。
窓から光が差し込む。しかし、チャトラに降りそそぐ僕の雨だけはやまなかった。
暖かい日差しに包まれてチャトラは大きくあくびをする。
僕はチャトラを膝に乗せる。ほどなくして膝の上からすやすやという寝息が聞こえてきた。
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