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前編
チャトラが車に轢かれた。
チャトラとは我が家の猫のことで、世話こそは母さんがほとんどをこなしているが、僕にとっても大切な家族の一員である。
母さんはその知らせを聞いて急いで動物病院に向った。先に着いていた姉ちゃんからは特に後ろ足がぐちゃぐちゃになって茶色い毛が赤く染まっていたとのことだった。一緒に行かないかと母さんに誘われたが僕は断った。どうもこの雨の中で悲しみを受け入れるためだけに外出するのは気が引けたのである。
そしてどういった風の吹き回しか僕にはある精霊が見えるようになった。
そいつは体は透けているものの、その姿はいかにもチャトラなのである。しかし明らかに違うところが二点ほど。一つ、触ろうとしても触れないのだ。撫でようとしてもそこには何もないのだ。そして二つ目。しゃべるのだ、人間の言葉を。しかもご丁寧に語尾ににゃんをつけて。
「ご主人様、話を聞いてほしいにゃん、それと早くこの状況を受け入れてほしいにゃん」
受け入れられるわけないだろ。昨日まで縁側でのんきに日向ぼっこをしていた猫が、急に人間の言葉を話しているのだから。
試しに頬をつねってみる。いたい。
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