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わたしの好きなところを、彼は連ねてそのまま指で数えながら教えてくれた。そして15を超えたところで、彼はそこまで話すと小さく息をついた。
「はは、一生分喋った」
蒸しタオルをとって、わたしは彼に向き合った。
「ごめんね、わたし今ひどい気持ちだ」
「つけこんでいいよ、なんて、ただ慰められたいだけ。本当にごめん。どうかしてた。」
「わかってますよ、でもつけこまないから安心してください」
「どうして?」
「どうしてって、愛だからじゃないですか?知らないけど」
「適当だなあ・・・笑ったらなんかまた涙でてきた」
「泣かないでくださいよ、どうしていいかわかんないから」
わたしの体の前を彼の手が所在なさげにウロウロする。あのひとだったら、わたしの頭を子供にするみたいにくしゃくしゃに撫で回すところだ。
「触っても、訴えたりしないよ。」
「なんだそれ・・・」
ひっそり笑うと、彼の手がわたしの頬に触れて、確かめるようにぺたぺたと顔を両手で触った。彼の手が思いのほか温度が高くて驚いた。
「変なさわり方」
「いや・・・なんか、ずっと触れたいとは思っていたから。」
優しい触れ方だった。この人はわたしを本当に好きなんだ。
でもあの人じゃない。そんな残酷さを含んだ気持ちでわたしはゆっくり瞳を閉じた。
彼の名前を、わたしは覚えた。
神様はいないから、あの人の名前を覚えたまま。
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