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「多分人生で、今すぐ来てって言われて駆けつけるのなんて先輩からの呼び出しくらいですよ。つか、二度目はないですよ」
「だよね。わたし今めっちゃブスだから顔みないでね」
「目やばいくらい腫れてます」
「うそお」
「ほんとです。台所とタオル借ります。」
30分で告げた住所についた彼は、さっさとわたしの家の台所に行くと、タオルを水ですすぎ始めた。水音が大きいから、勝手に話し始めることにした。
「あのひと、わたしのことを好きになることはないって言ったの」
「大事な幼馴染、妹みたいに思ってるって」
「少女漫画のテンプレみたいなこと言っちゃってさ」
「好きな女がいるんだって。その人と幸せになりたいんだって」
「わたしに幸せになれよ、だって」
「わたしの幸せは、あのひとと一緒にいることだったのに」
思い出したら、また目の前の景色が滲んできた。
出会ってから20年。全部、あのひとのものだった。だから今わたしはうんとうんと惨めな気分だった。
「愛だったらよかった」
「あのひとのことを愛していたらきっと幸せを祈れるのに、自分勝手な恋だから、振られてわたしことを好きになればいいとか、そんな自分のことばっか考えてる」
「目に、あててください。」
差し出された蒸しタオルを両手で受け取りそっと目にあてた。じんわりとした温かさに心が緩む。
「俺が入ったばっかのころ、愛想がなくて協調性ないのに辞めなくてすんだのは先輩がむちゃくちゃコミュ力高くて、明るかったから。」
「先輩のそういうとこ好きです」
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