第一章 入札

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第一章 入札

 僕は、六条(ロクジョウ)晴海(ハルミ)。  見た目は、純粋な日本人・・・には見えないと思う。左腕が肩からなくなっている。今は、生体義手を付けているので生活に不自由する事はない。新型で、防水・防塵・熱感知機能まで付いている特級品なのだ。外装部分に使っている皮膚も僕の細胞を培養して作られた物だ。指先はわざと機械の指にしている。義手である事が解る様にしている。  日本人に見えないのは、目の色が特徴的なのだ。右目が黒で左目が青の金銀妖瞳(ヘテロクロミア)だ。  目だけではなく、殺人事件の事件の被害者となり、僕だけが残されてしまった。病院で目が覚めたときにはに、黒色だった髪の毛が白髪になっていた。見る角度によっては、銀に見えるかも知れない。見舞いに来た人によっては”白銀”だと表現した人も居た。  そして、左目の上に大きくなにかで抉られた傷を残している。病院では、傷はきれいに治せると言っていたのだが、僕の意思で傷跡は残してもらった、両親と弟を忘れないようにするためだ。僕の命を()()()()()()()()()犯人たちが僕を見つけてくれる事を期待している。今度こそ、僕を両親と弟が眠る場所に連れて行ってくれることを祈っている。  捜査関係者には伝えていない事がある。”犯人を見ていないか”と聞かれた時に、僕は”犯人は見ていない”と答えた。嘘ではない。犯人は複数だった僕は”話声を聞いた、犯人()()を見た”だけだ。  殺されたのは、僕の両親と弟だけではない。分家筋(父さんの兄弟や姉妹)の関係者や家族も全員殺された。  唯一の生き残りである僕が六条家の遺産のすべてを引き継だ。分家筋の六条家が行っていた事業に関する権利を全部引き継いだ。  現金と3箇所の賃貸マンションの権利と伊豆と静岡市の港町の山奥にある別荘の2箇所の権利を残して他は全部売却する事にした。  会社の株も会社側が買い取りたいと言った物は全部売った。それでも多くの株が手元に残っている。資産運営なんてするつもりは無いので、そのまま塩漬けしておくつもりだ。経営権は放棄した。僕に、会社の経営なんてできるわけがない。六条家を支えた人たちで分けてもらう事にした。  それでもかなりの資産が残ってしまった。売却できないで残った物も多かった。  僕が奴隷を求めているのには、いろいろ理由があるが・・・。六条家に関わりがある・・・あった人たちから、身の回りの世話という名目で、女中やらメイドやらわからないが、女性をあてがわれそうになっている。  そんな面倒な事をしないでほしい。僕は、僕でやりたい事がある。そのために、僕は奴隷を買うことにした。  アナウンスがされて、奴隷市場が開かれた。  さっきのようなチンピラが言っている事は重々承知している。  六条(ろくじょう)の名前は伊達ではない。しかし、そんな事を指摘しても誰も幸せにならないし、あんな末端を怒らせてもしょうがない。  うまく誤魔化せばいいのにそれさえもしなくなってしまっている。  法律で、奴隷は1人しか持てない事になっている。なので、ほとんどの人が奴隷市場には一度か二度の来訪になっている。しかし、さっきのような態度を取れば、それが違う事がわかってしまう。滑稽だなと本気で思う。  奴隷制度復活が、少子高齢化社会に対する対策なんて誰も本気で思っていない。建前として素晴らしい政策だと言っている人がいるかも知れないが、巨大な与党への忖度以外に理由があるのなら教えてほしい。  しかし、悪法も法だ。認められた権利なら使わなければもったいない。  僕は、僕の為に奴隷を求める。今日、僕の求める奴隷が見つかるかわからない。相手が僕の為に僕を僕として考えてくれるかもわからない。わからないが、必要な事だと認識している。  扉から中に入る。  廊下は思った以上に寒かった。季節的な事もあるかと思うが、それ以上に廊下が広く長いことに驚いた。もっと、狭い場所に押し込められているイメージが有ったのだが、奴隷が管理されている部屋はそれほど狭くないようだ。  最初の部屋に近づいた。  部屋には、誰も入っていない事が示されていた。ネームプレートを見ると、赤い印が付けられていた。  そういうことなのだろう。  裏組織から狙われなければならないような訳ありの奴隷をわざわざ入札してまで買おうと思う人は居ないということなのだろう。  僕は好奇心からネームプレートに渡された端末を近づけた。  名前以外のプロフィールが表示される。  奴隷のプロフィールには、奴隷になる者が許可した情報が表示される。  ただ、この手の訳あり奴隷の場合には、情報は少ないだろうと予想していたのだが違った。訳ありである事が解るようになっていた。これなら、赤い印がなくても入札は行われないだろう。 /// ルーム1 性別:女性 年齢:29 出身:不明 希望:特になし 特記事項:  ・・・・・ ///  特記事項には、とある政治業者の暗殺事件に関わった者の家族と書かれている。  本人は、殺人だけじゃなく犯罪を一切犯していない。一般人なのだが身内に犯罪者がいる事は情報社会になっているのですぐにわかってしまう。わかってしまうと、生き難くなる。  借金を重ねて、奴隷になる道を選んだという流れだ。  よくある流れだ。  多分、これから23名の殆どが同じ様な無いようなのだろう。  もしかしたら、今回は外れだったのかも知れない。  ルーム2は誰かが入っている。  そりゃぁそうだ。100人近い購入希望者に対して、23名の奴隷では混雑するのは決まっている。  時計を確認しても、まだ時間がある。空いている部屋を先に見ておこう。  次の部屋は、空いていたが赤い印がしてある。  ルーム1と同じ用だ。  ようするに、借金の為に奴隷になる事を承諾した人たちという事なのだろう。  ちょっと待てよ・・・。  ルームが並ぶ廊下から離れた場所にある通信エリアに移動する。情報端末を取り出して、奴隷制度を開設しているページを開く。  やはり・・・。どういう事だ?  今まで気にしていなかったのだが、奴隷になる条件は、借金が有ってはダメとなっている。特記事項には、借金と書かれている。  ルーム2に戻って確認すると、借金とは書かれていない。  ルーム2の特記事項には、事故で家族を無くした為に奴隷になるような事が書かれていた。これも多い理由だと教えられた。  浮浪者になるか、奴隷になるかの違いしかないと言っていたが、浮浪者はなんの保証もない。しかし、奴隷になれば少なくても国が保証する事になっている。刑務所よりはだいぶましな生活を送る事ができる。学習を受けなければならないのだが、学習期間が終わっても引き取り手が現れない場合には、社会復帰という名目で奴隷見習いから開放される。目安として、3年程度だと考えられている。  一度奴隷身分になって、開放されてしまうと奴隷になれないというペナルティーも存在する。そうなると、犯罪奴隷になるか非公認の奴隷となるしか道がなくなってしまう。  なんとも、中途半端な救済処置だと思うのだが、国の偉い人達が決めた事だ。これで十分なのだろう。  借金を肩代わりしている者がいるという事だろう。ルーム1もルーム3も、借金を肩代わりした者が居て、その者はすでに奴隷を所持しているので、正規ルートからの入手が困難になっている。  若い衆が奴隷を購入して、借金を肩代わりしている人に渡す。  この国の暗部に繋がる部分なのだろう。奴隷制度をうまく使っている。  全部のルームを見て回ったのだが、赤い印がない部屋は混雑している。  待ち行列になっている。仕方がないので、情報だけ参照しておく事にした。  僕が求めている奴隷は居ないようだ。  赤い印の奴隷に関しても情報を取得しておく事にした。
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