第九章 復讐

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第三話 糾弾  晴海は、カップを持ち上げて飲もうとして止める。 「そう言えば、先代の事件の時に、お前たちはどこに居た?」  晴海の問いかけに答えられる者は居ない。  それぞれに理由があるのだが、言い訳になってしまう。もう一つ、各家が何をしていたのか明確に出来ない理由があるのだ。 「お館様」 「直道(なおみち)か?」  晴海だけではなく、夕花を除く者の視線が、城井直道(なおみち)に集中する。次期当主となっているが、正式には晴海が認めなければ、現当主が認めても、家は継げない。そして、晴海は直道(なおみち)よりも若い。夕花の存在は、跡継の問題が解決する可能性を示唆している。ここで認められなければ、どなるか解らないのだ。  それらの事情もあり、直道(なおみち)は晴海に認めてもらいたいのだ。そして、城井家を・・・。  自分のためにもっと大きな権力を得る。そのために、この場に来ているのだ。  他の家が口を噤んでいる事情はわからないが、自分ならうまくやれる。直亮(なおあき)を引きずり下ろして・・・。  城井を・・・。六条を大きく出来るのは自分だと思っている。 「はい。私も、当主も、先代のお館様の事件が有った時に」「やめろ」  城井家の当主である直亮(なおあき)が言葉を止める。 「直亮(なおあき)。控えろ。直道(なおみち)、話を聞こう」 「はっ。お館様!」  直道(なおみち)は、晴海からの言葉を受けて認められたと考えて、話を始める。  雄弁に語る姿は、どこかの舞台俳優のようだ。 「直亮(なおあき)。間違いはないな?」  最後には立ち上がって、身振り手振りで自分たちが以下に大変な状態だったのを語った、直道(なおみち)だった。すべてを語り終えた直道(なおみち)は椅子に座って満足した表情で晴海をみた。  晴海に認められたいのだ。  しかし、晴海は、直道(なおみち)ではなく、直亮(なおあき)に質問した。 「なぜ?」  直道(なおみち)は、自分に確認しないで、なぜ何も語らない現当主に確認するのか解らなかった。 「ん?なぜ?それを、確認する為に、私は、城井家当主の直亮(なおあき)に質問をしている。直亮(なおあき)直道(なおみち)の言葉に間違いはないな?」  直道(なおみち)とは対照的に、直亮(なおあき)の表情は暗くなっていく。顔色も悪くなっていく。  他の家の者たちも成り行きを見守っていく。夏菜と秋菜の二人はいつの間にか、晴海と夕花の後ろから出口の前に移動している。忠義と礼登が夏菜と秋菜が立っていた場所に立っている。懐に手を入れている事から、懐に忍ばせている武器(拳銃)をいつでも取り出せる状態にしている。  夏菜と秋菜も同じように、メイド服に隠している武器をいつでも取り出せる状態になっている。  4人の視線は、合屋家当主の泰章(やすあき)を見ている。晴海は、直道(なおみち)を射抜くような目線で見つめている。 「もう一度聞く、直亮(なおあき)直道(なおみち)の説明に間違いはないか?」  晴海は、直道(なおみち)から目線を外さずに、直亮(なおあき)に質問をかぶせる。  時間だけが流れていく。 「汗を拭け、直亮(なおあき)。喉が渇いて、声がでないのなら、目の前の飲み物を飲んだらどうだ?俺も飲んだが、駿河のお茶だぞ?あぁ安心しろ、先代が飲んだように、遅効性の痺れ薬が入っているような事は無いぞ?」  泰章(やすあき)は、自分が見られているのが解っている。泰章(やすあき)は、テーブルの上に置いた手が震えるのを止められない。怒りで爆発しそうなのだ。視線や背後からの殺気でなんとか爆発を押さえている。そして、晴海の横に座る夕花が落ち着いているのを見て、自分が取り乱すわけには行かないと思っている。しかし、テーブルの上で握られた拳からは血がにじみ出ている。 「直亮(なおあき)直道(なおみち)は、大学で発生した盗難の騒ぎを聞いて、駆けつけたと言っていたな」 「・・・。はい」 「やっと答えたか、まぁいい。それを、お前たちが、取り押さえたのだな」 「はい。間違いありません」 「直道(なおみち)の説明では、朝に連絡があり、大学に向かったのだったな」 「はい。妻から連絡を貰って、すぐに六条家に連絡を入れて、欠席の旨をお伝えして駿河に向かいました」  話初めて気持ちが落ち着いたのか、直亮(なおあき)は晴海を見てしっかりとした口調で話を肯定していく。 「忠義!」 「はい。欠席の連絡を、城井家よりいただきました」  忠義が追認したので、直亮(なおあき)は見てわかるレベルでほっとした雰囲気を醸し出している。 「そうか、それで駿河の大学で、昼過ぎまで捕物をしていたのだな?」 「はい。お館様。先代の訃報を聞き、駆けつけるにも、時間も距離もあり・・・。もうしわけございません」 「駆けつけなかったのは、他の家も同じだ。気にするな」  合屋を除く、他の家は全員が頭を下げる。  直亮(なおあき)も晴海からの圧力がなくなったと思って安堵した。 「夏菜。秋菜。六条の家から持ってきたお茶があるだろう?あの日の前に”文月”から届けられたお茶だ。入れてくれ。どうやら、皆は駿河のお茶が好みではないようだ」 「はっ」「かしこまりました」  夏菜と秋菜がお茶をいれる音だけが、室内に響く。  泰章(やすあき)は、注がれているお茶を凝視している。  新しいカップが用意されて、夏菜が冷えてしまったお茶が入ったカップを下げる。秋菜が新しいカップを置いて、お茶を注ぎ入れる。  皆の前に新しいお茶が配り終えた。 「そう言えば、文月が持ってきたお茶は、狭山茶だったな」  夏菜と秋菜が袋を確認して、生産地を確認する。 「うーん。いい匂いだな。合屋には地元の味だろう?」 「はい。お館様」  皆がカップを持ち上げる。 「あぁ色をよく見てくれよ。私も、あの日は、お茶の色もおかしかった」 「え?」  誰が疑問の声を上げたのかわからない。  晴海は話を続ける。 「朝食後に、先代に呼び出された。会の説明をされた。そのときに、メイドが持ってきたお茶を飲んだ。離れに戻って、体が痺れて、忠義を呼んでいなければ、私は生きては居なかっただろうな」 ”バーン”  机を叩いたのは、新見だ。 「合屋!貴様か!」 「お館様。儂たちは・・・。確かに、狭山は合屋家がまとめている。しかし・・・。文月にお茶を届けさせたりしない!」  幸典(ゆきのり)が立ち上がって、泰章(やすあき)を糾弾する。  夏菜が新見の後ろに立ち、秋菜が合屋の後ろに立つ。 「新見様」「合屋様」 「幸典(ゆきのり)泰章(やすあき)。座れ。私は、泰章(やすあき)が愚かな選択肢を選ぶとは思っていない」 「お館様」 「しかし、泰史(やすふみ)!あの日、お前は六条の家の近くに来ていたよな?」  皆の視線が泰史(やすふみ)に集中する。忠義と礼登は、黙って晴海と夕花の後ろに立って、観察している。  状況証拠が揃った。あとは、御庭番からの連絡を待つだけだ。 「泰史(やすふみ)!お前!」 「違う。僕は、呼び出されただけ・・・。です。本当です」 「六条の家の近くに居たのは認めるのだな」 「・・・。はい。あの日の朝、”いつものところ”に来いと・・・」 「それで?」 「お館様。私は・・・」 「泰章(やすあき)!座れ!私は、お前ではなく、次期当主に話を聞いている!」 「はっ」  威圧するように立ち上がった。泰章(やすあき)は、晴海の言葉を受けて乱暴に椅子に座った。  幸典(ゆきのり)新見もなにかを言いかけたが、晴海が幸典(ゆきのり)新見を見て手を上げて黙らせた。しばらくは成り行きを見守るようだ。 「どうした?」 「はい。昼まで待ちましたが・・・。来なかったので、帰りました」 「誰と何の目的だったのだ?」 「・・・」 「泰史(やすふみ)!」 「お館様。もうしわけありません。言えません」 「私の命令でもか?」 「・・・。はい」  頭を持ち上げて、晴海をしっかりと見る。声には恐れが含まれているが、しっかりとした声で自分の意思を晴海に伝えた。 「合屋が、六条に背いたと考えるぞ?お前が店に居たかどうかは考慮しないし調べない。お前が六条家の当主に黙っている。証拠なんて必要ないぞ?六条の当主が黒と言えば、黒になる。解っているよな?」 「・・・」 「もう一度だけチャンスをやる。合屋泰史(やすふみ)。お前は、あの日の朝。”いつものところ”に誰に呼び出された?目的は?」
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