第九章 復讐

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第五話 合屋 「泰史(やすふみ)!」 「はっ」 「泰章(やすあき)に、市花。新見。城井を呼びに行かせろ。泰史(やすふみ)は、寒川を迎えにいけ。寒川の望みを聞き出してから戻ってこい」 「かしこまりました」  夕花が会議室のロックを解除する。  泰章(やすあき)は、頭を下げて部屋から出ていった。 「晴海さん。なんだから嬉しそうですね」 「そうか?」 「はい。僕、少しだけ嫉妬してしまいそうです」  晴海は、夕花の頭をくしゃくしゃと撫で回した。 「夕花、もうすぐだ。俺の問題と夕花を狙っている奴らが繋がるかも知れない」 「え?晴海さん?」 「もうすぐはっきりとするから、はっきりしたら・・・。いや、今晩・・・。説明するよ。そして、二人で考えよう」 「はい。でも、晴海さん。忠義さんや礼登さんや泰史さんと話をしなくて、よろしいのですか?」  夕花は、ひとまず納得した。  はっきりしたらと言いながら、”今晩”説明すると言っているので、もうある程度は目処が付いているのだろう。 「大丈夫。彼らは、彼らの目的がある。夏菜と秋菜も同じだ。彼らの目的を実現するためには、僕が必要になる。だから、彼らは僕の為に動く」 「はい」 「僕のワガママだけど、夕花の問題は、僕と夕花で解決したい。解決方法が考えつかなかったり、難しくなったりしたら逃げてもいい。その時に、彼らを頼ってもいい」 「わかりました。僕の問題は、僕が死ねばいいと思っていたけど、違うのですね」 「うん。それも合わせて説明するよ。その辺りがまだ曖昧な状況だ」 「わかりました。晴海さん。二つだけ、知っていたら、判明していたら教えて下さい」 「なに?」  夕花は、晴海の顔を覗き込むように見つめる。  泣きそうな顔は、何かを知りたいけど、知るのが怖いという思いなのだ。  現実となった時に、自分がどう反応して良いのか解らないのだ。感情が整理されていないが、今晩の説明を受ける前に知っておきたいのだ。 「一つは、母の旦那だった人と私の前に母から産まれた男は、死んだのですか?」 「死んだ。遺体は確認出来なかったが、確実な情報だ」  死んでいると思ったが確認しておきたかった。 「そうですか・・・。もう一つは、私の母を殺したのは・・・。私の前に産まれた男ですか?」 「違う。組織の人間だ」  心のどこかで想像をして、想像した度に打ち消していた。 「・・・。よかった・・・」 「夕花の母親を殺したのは、俺の家族を殺して、俺を殺そうとした。今も、別の人間を使って俺を殺そうとしている」 「え?それは、僕が居るから?」 「それは偶然で、先方も困惑しているようだ」  晴海は、神妙な顔から、悪巧みが成功した子供のような顔になる。 「晴海さん?」 「ん?もう、今日のクライマックスが楽しみになってきた」 「そうですか?」 「夕花も、話を聞いて、驚いていいからね」 「不安な気持ちになりましたが、わかりました」 「うん。夏菜と秋菜が夕花を守るから安心して」 「はい?」 「彼女たちからの願いの一つだよ。これは、教えてもいいから、夕花に教えるね」 「はい」 「夏菜と秋菜は、特に、夏菜は、冬菜の死に責任を感じている。本来なら、あの日、あの夜の集まりには、夏菜が出るはずだった。でも、朝に倒れてしまった僕の病院に付き合ったのが、夏菜で、夏菜の代わりに集まりに出たのが冬菜だった。順番では、秋菜になるはずだったけど、秋菜は別口で用事があって集まりに出られなかった。そして、集まりで事件が起こった」 「・・・」 「夏菜と秋菜は、夕花に冬菜を重ねている。冬菜は、夕花と同い年で、夕花の髪の毛と同じ髪色だ」 「そうなのですか・・・。お姉ちゃんたちなのですね?」 「ハハハ。そうだな。夕花が”お姉ちゃん”と呼んだら喜ぶぞ?」 「僕も、男の親族は居たけど、お姉ちゃんが居なくて、欲しかったから、夏菜さんと秋菜さんが怒らなければ、”お姉ちゃん”と呼びたいです」 「会議とかでなければ、許してくれると思うぞ?」 「はい!」  扉がノックされた。  最初に、礼登が入って、忠義と夏菜と秋菜が続いた。  泰章(やすあき)が扉を押さえて、市花、新見、城井と入ってきた。  先程まで座っていた席に座った。  夏菜と秋菜は、夕花の後ろに立つ。忠義は晴海の隣に座る。礼登は、クルーザーの状態を確認すると言って会議室から出た。 「お館様?」  泰章(やすあき)は不安が混じった声で晴海に問いかける。  晴海は手で泰章(やすあき)を制した。 「晴海さん?」 「そうだな。泰史(やすふみ)から話を聞いた、理由もしっかりと聞いた、確かに六条の本邸の近くに居たと認めた。しかし、その後の行動と理由もしっかりと説明出来た。証拠も提示出来た。よって、合屋は無関係だと”私”が判断した。泰史(やすふみ)の話は忘れる」  晴海の言葉で喜びの表情を浮かべる二つの家。明らかに失望した表情を浮かべたのが二人。些細な表情の変化だったが、晴海も忠義も見逃さなかった。 「お館様。それでは、合屋家の次期当主はどこに居るのですか?」 「直道(なおみち)は、私が無関係だと言った、泰史(やすふみ)が気になるのか?」 「いえ、お館様のご判断を疑うわけではありません。しかし、この場に居ないのは・・・」  ドアがノックされた。夏菜がドアを開けた。  泰史(やすふみ)九法(くのり)幸田(こうた)が部屋に入ってきた。 「泰史(やすふみ)」 「はい。お館様。寒川家は、幸田(こうた)殿が次期当主となると決めたようです」 「そうか、わかった。幸田(こうた)。いや、文孝(ふみたか)泰史(やすふみ)の言は間違いないか?」 「はい。義父の文武(ふみたけ)より、文孝(ふみたか)の名前と寒川を頼むと言われました。お館様。お許しを頂けますか?」 「お前の望みは?」 「妻舞美(まみ)と産まれてくる子供の安泰です」 「わかった。文孝(ふみたか)を寒川家の次期当主と認める。能見!」 「はっ」 「手続きを頼む。後見人は、泰史(やすふみ)。お前がやれ。私と夕花に手間を取らせた罰だ」  異議など出るはずがない。六家では、六条家の当主が決めた事が絶対なのだ。 「お館様!それでは、合屋家が大きくなりすぎます!それに、寒川家なら、我が城井家か新見家の方がうまく処理することが出来ます」 「直道(なおみち)!私が決めた事が不服か?」 「いえ、そうでは・・・。しかし、それでは・・・」 「泰章(やすあき)直道(なおみち)は、不服らしいぞ?お前は、私に何を捧げる?」  泰章(やすあき)に視線が集まる。  晴海は、泰章(やすあき)の考えを忠義経由で聞いている。カードの切り時だ。晴海は、勝負に出ている。市花は、絶対にヤブを突かない。自分の家が守られればいいのだ。新見も基本は同じだ。権益を欲しては居ない。 「お館様。いえ、晴海様。私は、先代様と一緒に・・・。今は、晴海様のお考えになっている状況を良くする話をします」 「頼む」 「泰史(やすふみ)を合屋家の次期当主から外します。そして、私泰章(やすあき)が生きている間に、合屋家を解体したいと思います。合屋家の持っている物は、六条家にお返しいたします。本来なら、晴海様ではなく先代様にお返ししたかった・・・。です」  皆が固まる。 「続けろ」 「はっ。晴海様。お願いがあります」 「なんだ、言ってみろ!」 「はい。私・・・。泰章(やすあき)が死んだ時に、先代様のお隣で眠る許可をください。それまで、先代様の墓守をさせてください」  テーブルに頭を打ち付ける勢いで下げた。握られた手からは血が滴り落ちている。 「それが、お前の願いであり、けじめのとり方なのだな」 「はっ」 「私は、先代様と約束しました。先代様を守り通すと・・・。その為に、合屋の力を使いました。しかし・・・」 「わかった。泰章(やすあき)の好きにしろ。合屋家が預かっている(権利)や人は六条で預かる。泰史(やすふみ)!」 「はっ」 「寒川の整理が出来たら、お前も自由にしていい。今までの忠義。たしかに受け取った」 「ありがたきお言葉。できましたら、私の身体。命を、お館様に捧げます。お受取りください」 「わかった。まずは、寒川をしっかり立て直せ。話は、それからだ!」 「はっ!」  泰史(やすふみ)の言葉に隠れて、一人の男性がした舌打ちを晴海は聞き逃さなかった。
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