第九章 復讐

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第七話 昼夜  静かな時間が流れた。  礼登から漂ってくる血の臭い。耳を切り落とされた直道(なおみち)からも新鮮な血の臭いがしてきているが、気にするものは居ない。 「秋菜。そこで、うずくまっているクズを俺の前から排除しろ」 「何を、めか」「豚。口を開くな、臭い」  直道(なおみち)が、”めかけ”と言いかけたので、秋菜が強硬手段に出た。直道(なおみち)の耳がなくなった場所を殴って、黙らせた。 「秋菜。豚が可愛そうだ。豚は、餌を貰っている者になつくからな。最後に殺されて食べられる瞬間まで、主人を信じているのだからな」 「はっ。もうしわけありません」 「俺に謝らなくていい。今度、豚にあったら謝っておけよ。俺には、紹介出来る豚が居ないから無理だけどな」 「わかりました。ゴミを豚と同列に扱ってしまってもうしわけないと、謝罪します」 「そうしろ。夏菜」 「はい。場の空気が悪いな。愚者が居なくなるから、皆に”熱い”狭山茶を入れてくれ。今度は、六条の本邸のリビングに置かれていた、文月からの贈り物を入れてくれ、直亮(なおあき)には是非飲んで欲しいからな。あっ俺が飲んだ奴じゃなくて、俺の母親とお前たちの姉と妹が飲んだ物があるだろう?」 「はい。残りは少ないのですが、一人分なら大丈夫です」 「そうか、せっかくだから直亮(なおあき)に飲んでもらおう」 「かしこまりました。それならば、姉や妹が飲んだように、濃くしてお渡しします」 「そうだな。俺は、普通でいいぞ」 「かしこまりました」  秋菜が、直道(なおみち)を引きずりながら部屋から出ていく、礼登が晴海に耳打ちしてから、秋菜の後を追った。尋問をするようだ。礼登が行かなければ、直道(なおみち)は秋菜に殺されてしまう。  晴海は、すでに証拠を得ているので、殺してしまっても問題だとは思っていないが、礼登はしっかりと尋問をしておきたいのだ。  直亮(なおあき)は、下を向いて震えるだけで何も喋ろうとしない。  晴海もあえて質問はしない。  お茶が配られた。  直亮(なおあき)のお茶は、色は他のお茶と比べて濃いと思われるが、他の狭山茶がなければわからない程度だ。 「夏菜。うまいな」 「ありがとうございます」 「本当。夏菜。今度、私にも入れ方を教えて下さい」 「はい。奥様」  晴海と夕花と夏菜だけ違う空間に居るような雰囲気を出している。  忠義から報告や、出ていった礼登を待っているのだが、ゆるい雰囲気が直亮(なおあき)には恐怖を与え続けている。いつからなのか?どこまでなのか?わからないだらけの状態なのだ。断罪されるほうが楽かもしれない。 「お館様。晴海様」  痺れを切らしたのは、意外にも宏明(ひろあき)だ。 「どうした?宏明(ひろあき)」 「はっ。裏切り者はわかりました。経緯の説明は、詳細が判明したら、していただけると思っています。一つだけ教えて下さい。晴海様。城井が”不御月”を知らないと言ってから、城井を糾弾しているように感じました。なぜですか?城井には不自然な様子はなかったと思います」  宏明(ひろあき)は晴海に疑問点をぶつける。  晴海は、愉快そうな表情をして、直亮(なおあき)を見ている。  直亮(なおあき)宏明(ひろあき)だけではなく、皆が感じていたことなのだ。晴海の雰囲気が変わったのは、各家の挨拶が終わってからだと思っていたのだ。だから、城井も最初は合屋への誘導がうまくできたと思って喜んでいたのだ。 「ん?誰も解らなかったのか?直道(なおみち)は、致命的なミスをしたぞ?」 「??」 「俺が、貴子のことを聞いた」 「はい。覚えております。確か、直亮(なおあき)が”控えています”と言ったと思います」 「”自宅で待機している”と言った」  晴海は訂正したが、ニュアンスは間違っていない。  幸典(ゆきのり)も認めるように返事をする。 「はい」 「その後で、俺の依頼がどうなったか聞いて、直亮(なおあき)は”もうしわけございません”と言って、”知っている”とも”知らない”とも答えていない」 「そうでした」 「俺が、直道(なおみち)に、なにか聞いていないかと付け足した。奴は、自分が貴子に代わって、”承る”と言った」 「はい。私も、そう記憶しております。晴海様は、その後で、”不御月”の話を聞いていないかと、詰問しました」 「奴は、”何も聞いておりません”と答えた。”聞いていない”とな。貴子には、不御月の話をしていない。だから、聞いていないでも問題はない。だが、”何も”聞いていないとなると話は別だ。依頼の話を聞いていないとは言わなかった。当然だよな。貴子には、とある本を探して貰っていたのだ。先代のコレクションが運ばれたのは、城井家だ。研究畑だからと渡された大切な本だ。リストに細工が出来るのは、当主か次期当主だけだよな?そして、六条の当主が依頼した、本を探すのに、城井の当主や次期当主を通すはずだ。違うか?」  皆が直亮(なおあき)を見るが、直亮(なおあき)は何も言わない。俯いているだけだ。 「宏明(ひろあき)ならどうする?」 「家の者を使って、探します。自分に不手際があったら、死んで詫びます」 「死ぬ必要はないが、詫びを入れに来るだろうし、当主まで話を通すだろう?」 「当然です」 「貴子も同じだよな?」 「そうですね。貴子殿なら間違いなく、お館様に預かっている本を紛失した可能性があるのなら、家中の者を総動員してでも探そうとするでしょうね」 「俺もそう思う。それなのに、当主も次期当主も”もうしわけございません”としか言わなかった。裏切っていると考えていい事象だろう?」 「はい。先代の本とは、六条に保管していた本ですか?」 「そうだ。稀覯本も数多くあった。一冊だけ貴子が持っていた”リスト”から外れていた」 「その本は?」 「先代から、俺がもらうはずだった本だ」 「え?だったら、リストから外れていても」 「そうだ。外れていても不思議ではない。だが、六条の書庫にはなかった。忠義と礼登に調べさせたが、見つけられなあkッタ。見つけられたのは、リストだけだ。当主のサインもしてあった。そして、探している本は、六条で保管していた城井に渡った本のリストに名前があった」 「それは・・・」 「そうだ。実際に、本が紛失していて、城井がリストを作った時に消した可能性や、先代が俺に渡すつもりで別の場所に保管していた可能性もあった」 「・・・」 「なぁ直亮(なおあき)。この”人食い薔薇”は、なんで城井のクルーザーの中に有った?リストに乗っていない本だぞ?城井で管理されていない本ではないのか??それとも、どこかで見つかって慌てて持ってきたのか?大切に金庫に保管されていたらしいぞ?教えてくれよ」 「・・・。お館様。それは・・・。貴子が・・・」 「おい。貴子は、関係はないだろう?そうだろう?忠義!」 「はっ。貴子殿を確保したと、能見から連絡が入りました。やはり、軟禁されていたそうです。明日、お館様にお会いしたいそうです」 「わかった。さて、直亮(なおあき)。まだ、なにかあるか?」 「・・・」 「そうだ。もう一つ、お前はミスをした。余計な一言で確信したぞ、裏切っていただけではなく、先代や俺を除く六条を殺したのは、お前たち・・・。いや、もしかしたら、直道(なおみち)の独断かもしれないけど、城井に責任がある」 「え・・・?ミス?」 「おいおい。本当に気がついていないのか?」  晴海は、周りを見回すが、事情が解っている忠義を除いて誰も気がついていないようだ。 「忠義!」 「はっ」 「もう一度、聞く、城井家から、あの日の会合に欠席する旨の連絡を受けたのは何時だ」 「朝です。正確には、9時5分です」 「直亮(なおあき)。間違いないな」 「・・・。はい」 「そして、昼過ぎまで捕物をしていたのだな」 「はい」 「正確な時間は?」 「もうしわけございません。昼を少しだけ回った時間と記憶しております」 「まぁいい。それなら、14時には終わっていたのだな」 「はい」 「それで、先代の訃報を聞いたのだな。誰からだ?」 「え?あっ・・・。もうしわけございません。覚えておりません」 「そうだろうな。覚えていないよな。昼なら、まだ訃報は起きていないからな」 「え??」 「幸典(ゆきのり)。教えてやれ。お前は、確か本邸に向かったのだよな?」 「はい。私が、訃報の連絡を受けたのは、21時です。”晴海様を含めて、全員が殺された”と連絡を受けて、すぐに本邸に向かいました。向かっている最中に能見から、”晴海様を除く・・・”と連絡を受けて、晴海様が入られている病院に向かいました」 「そうだったな。これで解っただろう?直亮(なおあき)たちは、誰から連絡を受けた?教えてくれ?俺が忠義に言って、外向けには時間は明記しないように命じた。だから、幸典(ゆきのり)以外は、正確な時間がわからないはずだ。そもそも、昼すぐに訃報を聞くとしたら、”晴海が毒を飲んだ”だけだ。それも、忠義に外部には漏らさないように命令した」 「解っただろう?お前が、昼に聞いたと言った時点で、自分が裏切り者ですと告白しているのと同じだ!」 「・・・。なぜ?朝だった・・・。はずでは?」 「そうだな。本来なら、俺が先代に呼び出されて、俺が次期当主を降りるという話をした。先代は、笑いながら承諾してくれたよ。そのときに、出されたお茶を飲まなければ、俺は六条から解放されていたはずだ」 「え?それでは・・・」 「そうだな。六家から次期当主を選ぶか、俺の血縁者に譲るつもりだったのだろうな。殺されなければ」 「!」 「そして、俺が倒れた。六条で出されたお茶を飲んで倒れたのだぞ?そのときに、屋敷に居たものが外に出られなくなるのは当然だろう?お前たちに成果を伝える者たちもこの時点で外に連絡できなくなって、文月が用意した集団に殺されたのだろうな」  晴海は、少しだけ冷めてしまったお茶で、醒めてしまった心を温めるように、一気に流し込んだ。  そして、飲み終わった茶碗を床に投げて、叩き割った。
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