第九章 復讐

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第九話 終結  船上で行われた粛清劇から1ヶ月が経過した。  城井貴子は、旧姓の朝日を名乗って、大学に復帰した。  忠義は、自分の代で”能見”を終わらせるという望みを晴海に託していた。六条は、足抜けを認めていなかったが、家が潰れれば話は変わってくる。そのために、新見に能見を吸収させた。家が吸収されるならから、出ていきたい者は出ていけと新見に宣言させたのだ。  忠義の願いは叶った。残りの人生を晴海の為に命をかけると忠義(ちゅうぎ)を誓った。  新見は、文月を襲撃した犯人を、能見を使って特定した。大陸系の集団を使った不御月の仕業だ。残っていた正義感だけは過大に持っているマスコミに情報をリークした。表の名前である”文月”での告発だ。報道しなかったマスコミがほとんどだったが、タウン誌が文月と不御月の関係を記事にした。一社が記事にすれば他も追従する。裏の顔がめくれてしまった。文月は東京でも力が弱まっていった。  合屋が率いた者たちは、新見が能見を使って見つけてきた、不御月の関連施設を襲撃した。東京都以外の場所での不御月の活動拠点を潰していった。少なくない死者を出しながら、合屋は自分の望みである。先代の仇討ちを行っていった。  寒川は、市花と貴子の力を借りて、学校と宗教関係をまとめた。  無事、城井が持っていた権力基盤を引き継いだ。多少の混乱は生じたが想定外の事象は発生しなかった。城井の後始末と家の解体を行う過程で判明したのだが、城井は、六条だけではなく、他の家の当主殺害を計画していた。それらの計画も寒川によって晴海に報告された。  礼登は、自分の部下を合屋に預けた。  礼登の望みは単純だ。自分の義母と義妹を殺した人物を殺す。新見が礼登の義母と義妹を殺した者と命じた者を探し当てた。殺せと命令したのは、礼登の父親だが、その父親に命じたのが不御月だった。不御月は、文月を支配するのに都合が悪い駒を殺すように命じたのだ。実行犯は土佐に潜伏している者たちだと解って、礼登は単身、土佐に向かって、実行犯を殺した。実行犯の家族の前で、ミンチにして豚に食わせた。その豚を、家族に食わせた。復讐の連鎖を断ち切ろうなどと考えていない。恨むなら勝手に恨んで自分を殺しに来いとまで言ってのけた。そして、礼登に向かってナイフを振りかざした子供を親の目の前で蹴り殺した。礼登の復讐は終わった。  夏菜と秋菜は、直亮(なおあき)直道(なおみち)を尋問して、情報を引き出した。晴海から許可を貰って、二人を拷問にかけた。二人の姉と妹が苦しんだように、苦しめばよいと思ったのだ。手足を切り落として、声帯を潰した。頭が冴えるように、薬を投与し続けた。生理食塩水に浮かべながら、肉食の魚に食わせたのだ。徐々に死んでいく恐怖を味わってもらったのだ。二人は、死を確認すると、伊豆の晴海と夕花の住む屋敷の一階に住み始めた。  晴海と夕花は、変わらず大学に通っている。研究所ができたので、夕花は図書館と研究所の往復だ。  晴海は、六条の寄贈本を整理して、本を読み漁っている。どこかに、”人食いバラ”に書かれた暗号を解く鍵があるかも知れないと思っているのだ。  1ヶ月経過したが、”人食いバラ”の表紙に書かれた暗号は解除できていない。 「忠義。久しぶりだな」 「晴海様。夕花様。もうしわけありません。新見家から正式にご報告が来ると思いますが、夕花様のお母さまの事情がわかりました。正確には、断片情報を繋いだ結果の憶測を含みますが、ほぼ間違いないと思います。合わせて、不御月が狙っている物も見当がつきました」 「本当か?」 「はい。まずは、これをお読みください」  忠義が提示した資料は、それほど多くない。  要約された物のようだ。  晴海は、文章を目で追っているが、何度か忠義を見た。忠義も晴海の反応の意味がわかるのか頷いている。  資料を見た晴海は、忠義を見る。まだ資料は、夕花に渡していない。  夕花に読ませる前に、忠義に確認しなければならないのだ。 「忠義。どれが憶測だ?」 「最後です」 「最後と言うと、不御月が夕花を狙っているというところか?」 「はい。ほぼ間違いないと思われます。奴隷市場に不御月の者が何度も足を運んでいるのを確認しています。年齢や姿かたちから、夕花様を探しているのは間違いありません」 「そうか、なりふり構っていられなくなったのだな」 「はい。以前は、神奈川の組織を使って居たのですが、晴海様が夕花様を購入してしまった。その事実を、不御月にそれを隠して、探そうとしたのですができずに、組織ごと、不御月に潰されました」 「それが、夕花のお兄さんが居た組織なのか?」 「はい。間違い無いようです」 「不御月の下部団体だったのだな」 「はい。間に3つほど挟みますので、自分たちが不御月の下部組織だと知らなかったようです」 「捨て駒・・・。忠義。本当なのだな?」 「はい。それ以外には、憶測は含まれておりません。証拠も見つかっています。証拠は、新見の報告書と一緒になっています」 「わかった。夕花。お義母さんと夕花の出生がわかる資料だ。かなりショッキングな内容だが、見るか?」 「はい。お願いします」  夕花は、覚悟はできている。自分が何者なのかわからない気持ち悪さに比べれば大丈夫だ。それに、隣に晴海が居る。晴海が居れば大丈夫だと思えるのだ。  晴海は、忠義が持ってきた資料を夕花に渡す。 「晴海様。それで、こちらが、不御月が狙っている物の資料です。こちらは、寒川が城井の後始末をしている時に見つけた資料と、市花が持っていた資料と、不御月が最近になって行い始めた事業から推測した物です」 「わかった」  晴海は、資料を読んだ。  予想はしていたが、間違いではないようだ。 「クズだな。こんなことのために・・・」 「はい」 「晴海さん。僕・・・。お母さんの子供だけど・・・」 「あぁそれで、お義母さんも、夕花から見たら祖父と姉の子供だ。そして、祖父が自分の子供に産ませたのが、夕花になる」 「もともとは、不御月巌が大病を患った事が始まりだ・・・」  巌は、心臓の病気になった。  心臓移植は医療として確立していた。ただドナーが必ず居るわけではない。適合しなければ移植しても意味がない。巌は、当初は外に適合する心臓を求めた。しかし、適合する心臓が現れないまま時間だけが過ぎた。過ぎた時間に比例するように、巌は狂気を持つようになった。そして、自分の娘を殺して心臓を移植した。  これで、巌は若い心臓を手に入れた。  巌は恐れたのだ。また、同じように病気になったら、また自分は苦しむのか?死にたくない。  その思いが強くなり、狂気に走った。まずは、残っていた娘を自分で犯した。娘の遺伝子だけでは弱い。自分の遺伝子を直接持つ子供なら、心臓以外でも適合するだろうと考えたのだ。それで、産まれたのが夕花の母親だ。  母親は成長したが、巌はまた心臓の病で倒れた。狂気に満ちている巌は迷わずに娘を殺して心臓を移植した。  しかし、この件で巌の心にさらなる狂気が産まれた。娘の心臓だから長持ちしなかった。遺伝子が半分しかないからだ。もっともっと、それこそクローンになれば自分は永遠に生きられる。そう考えた。夕花の母親が成長するのを待って、誘拐された事にして犯した。妊娠を確認してから堕胎させて、取り出した子供の遺伝子を調べさせた。それから、母親から卵子を取り出して実験を重ねた。  そして産まれたのが、夕花だ。  母親は、自分の父親の実験を知り逃げ出した。その後、バツイチで子持ちの男と結婚するが、男の子供を自分が生んだ子供として届け出た。不御月の追求を交わす目的が有った。夕花を妹として登録した。 「晴海さん。僕」 「夕花は、夕花だ。俺の愛する人だ。それじゃ不満か?」 「ううん。十分。でも、これで、僕は不御月を憎める。自分の身を守るために、晴海さんのために、不御月を潰したい」 「あぁ」  不御月巌は、100歳を超えて何度も手術に耐えられない。  だから、夕花の身体を手に入れて、全部の臓器を入れ替えるつもりなのだ。できれば脳移植を行って、夕花の身体を乗っ取るつもりなのだ。女の身体になり、自分の精子と自分の卵子から、新しい自分を産むつもりなのだ。  不御月巌には残された時間が少ないのも確かだった。  だから焦ったのだ。六条が持っている軍事施設には、戦中に行った非合法な実験の資料が残されている(と言われている)。その中に、脳移植に関しての実例や実験設備がある(と言われている)。不御月は、夕花を見つけていた。連れ去る準備はできていたのだ。ただ、タイミングが悪い事に、夕花の(戸籍上の)父親が東京で薬を売るような組織に属していた。その娘に手を出したら、報復行動に出られる可能性があった。六条とことを構える可能性があった為に、二正面作戦は避けたかった。それらの思惑が絡み合った結果、偶然と偶然が重なってしまったのだ。 「晴海さん。そんな施設、壊してしまいましょう」 「晴海様。私も、夕花様に賛同いたします」 「そうだな。伊豆の島にあるのだろう?探してみるか?暗号が使われている場所を探せば良いのだろう?」 「はい。夏菜と秋菜も連れていけば、探し出せると思います。彼女たちは、島で産まれています」 「そうなのか?」 「はい」 「わかった。明日にでも、島を調べてみるか?」 「はい」「御意」
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