肩に小鳥が留まったら

3/4
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
 幸せな時間はあっという間に過ぎて、電光板に終点の文字が浮かび、アナウンスが「ご乗車ありがとうございました」と丁寧なお礼の言葉を告げる。あと一分もせずに、電車はホームへと入ってゆくだろう。そろそろ、彼女を起こした方が良いだろうか。いや、終点だし、着いてから起こしても大丈夫かな。決心がつかず、背筋を伸ばしたまま一人で百面相をしていると、急に肩が軽くなり、その拍子に再び甘さが漂う。 「お、起きた?」  思わず声が裏返ってしまったが、目を擦る彼女はまだ寝ぼけているのか、返事が無い。 「次、終点だよ」  とりあえず、それだけは伝えようと声を掛ける。  すると彼女は、まるで『1+2=3』であるかのように、さも当然といった風に。 「知ってる」  はっきりとそう言った。  ゆっくりと電車が停止する。ドアが開き、彼女が鞄を持って立ち上がる。慌てて僕もリュックを背負うと彼女に続いた。 「じゃ、私、あっちだから」  普段と変わらない調子で、彼女はあっさりと去ってゆく。僕は彼女の後姿を見つめながら、何も言えずに立ち尽くした。  そう、そうなのだ。  彼女が起きた時には、終点のアナウンスは流れてなかった筈なのだ。  なのに。 「起きてたの?」  やっと探り当てた答えが、大きな声になって僕の口から飛び出した。  頬が火照って堪らない。  一人きりのホームで、僕はへなへなとしゃがみ込む。  熱はしばらく引きそうになかった。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!