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盗聴3日目
盗聴三日目
22:10
仕事が長引いて、帰るのが遅くなった。あいつら、納期ギリギリに無茶な注文つけてきやがって。これはヤケ酒だと、帰りにコンビニで買ったサワー缶のプルタブを引っ張り上げる。プシュ、と炭酸が抜ける音がたまらない。
酒で喉を鳴らしてから、聴診器をセットし、隣の音に耳を傾ける。
戸成さんの部屋からは、キシキシと、何かがきしむ音がする。
はて、何の音だろう。私は疑問に思った。
音の性質は、昨日の、行為中のベッドのスプリングがきしむ音に近い。というか、ほとんど一緒だ。
ただ、それにしては、ベッド音「しか」しないのはどうしてだろう。声を出さない系の女の子になったのだろうか。
それとも、一人で性交のイメージトレーニングでもしているのか。
音に耳をすませて、考えれば考えるほど、やっぱり、昨日のきしむ音との違いは特に感じられないようだった。
もしかしたら、戸成さんは、ベッドがきしむ音と似たような音がする何かを持っているのかもしれない。そうだとすれば、それは何だろう。何があればこんな音を出せるだろう。
私の妄想が膨らんでいく。これだから、生活音の観察はやめられないんだ。
ひととおり考えてみても、原因はわからなかった。万が一、一人でイメトレ中だったら邪魔するのは悪い。私は聴診器を外した。
それにしても、酒がまわってきた。サワー1缶も飲めないこの体質が憎い。私が酒豪だったら何缶でも買ってきて、とりあえず開けて気の抜ける音を楽しむのに。
そうだ、炭酸の気の抜ける音だけで音階を作ってみるのもありかもしれない。
今度上司に提案してみよう。
私は風呂に入ることにした。今日の盗聴はここまでだ。
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