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第四章 彼のところへ
購入したのは3ヶ月先の航空券。彼と私の仕事のスケジュールを考慮して日程を決めた。
航空券も買って、会う決意をしたものの、実際に会うまでの3ヶ月間は、喜びばかりではなく、不安と期待が入り混じった、これまで味わったことのない、複雑な感情が湧き上がっていた。
ジムでのトレーニング中も、少し気を抜くと悪い事を考えてしまっていることも多かった。
渡航一週間前、彼は私達の会う日をカウントダウンしていた。「一週間後は、一緒にいるんだね。とても楽しみにしている。」彼のわくわくした気持ちが溢れていて、私も嬉しくなった。
渡航当日、私はこれまでにないくらい早く空港に着いた。緊張しても、彼に会えるのは、まだまだ先の話と自分に言い聞かせ、リラックスして過ごした。しかし、飛行機の中では、時差ボケをなくすために眠ろうと努力したもののあまり眠れなかった。
イタリアに着き、飛行機から降り立った瞬間、これが私が恋焦がれたイタリアの空気かと思い、胸いっぱい吸った。イタリアの空気は思っていたより冷たかった。
彼の住む街までは、電車で3時間。空港まで迎えに来てくれるという話もあったが、高速電車のほうが早くて快適ということもあり、私達は彼の住む街の駅で会うことになっていた。
駅は終点のため、眠っていても寝過ごすことはなかったものの、電車に乗ってからはドキドキが止まらず、眠さと緊張でヘトヘトになっていた。
目的地に近づくにつれ、電車の中のお客さんも減っていき。また1つ、また1つ、駅を通過し、彼の元に近づいていく。駅で会えなかったらどうしよう。実際に会ってみて、これまでのイメージと違っていたら・・・等と今更どうしようもない考えが頭を巡る。
気が付くと、聞いたことのある地名の駅。彼が働いている街だ。ということは、終点は目と鼻の先。電車は私の心は知らず、定刻通り終点へと向かっていった。景色はすでに夜のため、周りは真っ暗で何も見えない。数分後、いよいよ終点の駅が見えてきたとき、私は彼の姿を目で探した。ホームで待っているという彼の言葉。しかし、姿は見えない。
到着のベルとドアの開く音、私の緊張は最高潮に達していた。座席から一番近いドアには、見覚えのある笑顔があった。ハの字に眉毛が下がり、顔全体が緩んだような優しさの溢れた表情。その笑顔を見た瞬間、私は何かに包まれたようだった。
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