【一章】首切り死体を見て疑うべきなのは犯人の良識でしょうに

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 彼らはきっと目の前で偉そうに講釈を垂れる探偵を見てこう憤ってる筈ですよね、「それを考えたのは自分だ!」と。  こんな言葉があります「探偵はその跡をみつけて難癖をつける……ただの批評家にすぎないのだ」。  これはとある偉人の言葉ですが――僕も全面的に同意しますよ。  いや、実際のところただの評論家ならまだマシです、それならばまだ僕も一定の理解を示せたでしょう。  けれど「探偵」はその実講評すら殆どすることはありません。  彼らがするのは粗探しばかりで、例えそれが自力ではなく幸運から生じた発見だとしても、ほんの少しでも綻びを見つけようものならば鬼の首でも取ったかのように騒ぎ立てる――「探偵」とはそんな悪質なクレーマーでしかないんです。 「人も殺したこともない奴」が、「どうやって人を殺したか」語る――その愚かしさが分かりますか? 未経験の奴がさも数多の経験を経た百戦錬磨のプロフェッショナルかのように振る舞う、そんな愚かしさは世間一般的に認識されてるはずなのにおかしいとは思わないんでしょうかね。  可笑しいですよね。  笑っちゃいますよ。  まあ、「探偵」自身は人を殺したこともなくとも恐らくは本心から自分のこと殺人事件のプロフェッショナルだと思っているんでしょうが――それが余計タチが悪い。  実際、「殺したことがない奴」なんかが推理するより「殺したことがある奴」が推理した方が推論の確度も論理的な展開のしやすさも上がると思うんですよね。  だってあいつら「こうすれば非力な女性でも人を撲殺できるはずだ!」とか言うんですよ? 女でもなければ、人を殺したこともない奴が――女ならどれくらいの力で鈍器を降り下ろせて、人間はどこにどの角度でどれだけの衝撃を受ければ命を失うのか――教科書的には勿論知っているんでしょうけれど、身をもって彼らは知らないはずなのに。  義務教育を受けていれば現実世界で教科書が如何役に立つのかくらいは知っているはずでしょうに。  ――だから、僕は謎解きは探偵じゃなく、人殺しがするべきだと言うんです。  謎解きには「殺したことがある奴」の方が相応しいと。
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