【一章】首切り死体を見て疑うべきなのは犯人の良識でしょうに

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 その点……ああ、えーっと、世間的には「旧モール跡地殺人事件」なんてなんの面白みもない名前でしたっけ。  あえて僕が命名し直すなら――うーん、戦場、神隠し、要塞、作家……鬼? 鬼か。  そうだな四人の殺人鬼で――「四鬼(しき)」。  四つの鬼が箱庭に閉じ込められて――()()(おり)()りで四季折々。  少々シャレがキツイですが「春夏秋冬殺人事件」――とでも名付けましょうか。  その点、「春夏秋冬殺人事件」には偶然とは言え探偵ではなく人殺し(ぼく)が乗り合わせたんですから……本当は人殺しだからこそ巻き込まれた、なんて言った方が正しいんですけどね。  成り行きとは言えその謎を僕が解き明かすことになりましたが、今思い返せば僕が探偵じゃなく人を殺す側の気持ちのわかる人殺しでよかったと思います。  多分、探偵役に追い詰められる犯人だって、実際に人を殺す苦労を――心を殺す苦労も知らない、ただ上っ面の知識だけで何かを語る奴よりは、その苦労を身をもって知っていて、心に寄り添ってくれる奴に暴いて欲しい筈ですから。  だから、僕が謎を解き明かしたんです。  だから、僕が謎を解き明かすんです。  探偵なんかじゃなく、人殺しとして。  机の上で人が生きた死んだの話をして、それでご飯を食べてる無責任な奴ではなく、人の命の重さに押し潰されて、ご飯も喉を通らない者の責任として。 「春夏秋冬殺人事件」については結局、名探偵のように大円団の結末は迎えられず、血みどろの終末しか待っていませんでしたが――しかしそれでも、他ならぬ人殺し(ぼく)が結論を出して良かった今もそう信じています。  ――僕が答えを出して良かったと。  ま、僕は人を殺したことないんですけどね!   確かに僕は人を殺した、ということになってはいますけれどそれ全部冤罪ですし! 先に結末言うならばこれは人を殺したことがない僕にはやっぱり人殺しの気持ちは分かんねーよな、って話ですから。  僕が人を殺めたことがあったら彼らにもう少し寄り添うことが出来たのかも――と、そういう話です。  まあ寄り添おうとも思いませんが。  じゃあそろそろ長々とした前置きはこれくらいにして本題に入りますねー。
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